「・・・すき、って」

 まじまじとヒロトの顔を見る。笑っていると思ったその顔は思いの外、ずっと真剣で、たとえばそれはFFIの前に卑屈になっていたときに向けたそれとよく似ていた。先ほどまで心拍を加速させるだけだった心臓はきゅっと締めあげられて、きんと痛みを呼んだ。

「ちがうかい?」

 あくまでも問いかけてくるヒロトはずるいと思う。自分の気持ちを言ってくれないのも問題だし、そもそも質問の意図がよくわからなかった。ヒロトのことを好きか、と聞かれればそれはもちろんイエスだ。いろいろあったとはいえ、ともに過ごしてきた年月の間でたくさんその優しさを、暖かさを知っている。だけど、たとえばそれがこの前涼野が言っていたように恋と名の付くものについてだとしたら、曖昧な答えをするしかなかった。どうしたらそれの好きになるのかもわからなかったし、だけどヒロトに友人や、お日さま園の家族以上になにか特別な情を感じているのも確かなのだ。

「わ・・・わかんない」

 はいともいいえとも言えずに、中途半端な答えを返す。ヒロトはその答えに意外そうに目を瞬かせた。

「じゃあなんで真っ赤なのさ」
「それは、ヒロトが変なこと言うからだろ!」

 そんなことを言いながら手を伸ばしてきたヒロトに驚いて後ずさりをしようとするけれど簡単にその指先は頬に触れた。自分の頬が熱を持ちすぎているのか、はたまたヒロトの指が冷たいのか、温度差で生まれた痛みに似た何かがじんわりと頬から広がっていく。

「・・・・・・わかんないよ、ヒロト」

 その痛みが心臓に達したとき、やっといままで引っかかっていたものがわかった気がした。それでヒロトへの質問の答えが出たわけではないのだけれど。だから曖昧な返答をもう一度繰り返した。

「だってヒロトはずっと憧れで、だから、俺が、ヒロトのことを好きになっていいのかわかんないよ」
「そんなこと」
「あるよ」

 はじめてはっきりとヒロトの言葉に言い返すとヒロトはまたぱちくりと瞬きをする。そうすると目の中の光がきらきらと散っていって、やっぱりそれは心拍数を加速させる。仕方ないなぁとでも言いたいかのように吐かれたため息は、だけど、ずっと柔らかな響きを持っていた。

「じゃあお前が俺のことを好きだってわかるまで待ってるから」

 それでいいよねの言葉とともに額に降ってきた唇に、飛び上がって驚くまであと少し。


そう言ってあなたは私の心を崩すのね


(2012/02/28 * title)
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