かたかたと冬の風が窓を揺らす。透き通るような水色の空は、どんよりとした灰色の雲をたたえたそれよりもずっと冷たく見える。なにをするわけでもなくぼんやりとその水色の先を探していると、がたんと後ろのドアが開いてほんわりと湯気の立つマグカップを二つ持った松風が入ってきた。

「剣城?」

 なんかあった?
 ローテーブルにマグカップを置いた松風はきょとんと首をかしげてこちらを見てくる。その視線がどうしようもなくくすぐったくて、こみ上げてきそうになる柔らかな笑いをなんとか噛み殺して、誤魔化すように首を振った。別に、そういうと松風は大きな目をくるりと動かして「そっか」と言った。
 空気が読めないだとか周りを見ないだとか、松風に対する評価はいろいろあるだろうけれど、実際のところそれがサッカーに関することにしか発揮されないと気が付いたのは最近だ。本当に好きなんだなと思う。サッカー以外のことに関して、松風はその天然っぷりを往々に見せつけてはくれるものの、例えばこういうとき深く聞いてきたりはしないくらいの分別は持ち合わせているらしかった。心地良い沈黙が、訪れることすらある。

「剣城はコーヒーでいいんだよね」

 いつもよりもぐっとトーンの落とされたそれに「あぁ」と生返事をする。松風のこういう声が嫌いではなかった。少しだけ大人びた、松風の部屋にいるからこそ聞ける声。まだその余韻が残っているような気がしてつい耳を澄ます。松風はかたんと音を立てて自分のマグカップを持ちあげた。松風のカップには淡い茶色の液体がぐるりと渦を巻いていて、あれ、と思った。松風のカップにはいつだってなみなみとミルクが注がれていたはずで、コーヒーは飲めないと本人が言っていたはずだ。
 こちらの視線に気が付いたらしい松風は顔を上げて、はにかんだように笑った。

「剣城が飲めるなら、飲めるかと思ったんだけど」

 俺はこのくらい薄めないとやっぱ無理、という。何重もの円を描くマグカップの中身は、それがもともと同じ液体だったとは思えないくらいの色をしていて、それでもなんとなく松風の行動が嬉しくて、それが顔に出てしまう前に慌ててそっぽを向く。

「それ、コーヒーとは言わないだろ」

 そうぼそりと零した言葉に松風はひそやかに笑った。そういう笑い方もできるんだななんて思ってその横顔を見ながら淹れてもらった(たぶん松風じゃなくて秋さんだろうが)コーヒーを飲んでいたら、剣城とキスしたら、これよりもっと苦いのかぁなんて爆弾を落としてくるものだから、むせてしまったのは仕方ないことだと思う。



不意打ちは禁止



(2012/01/17 * title)
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