キスをするとふるりと震えるそのまつげが好きだった。柔らかな唇を啄むように軽く音を立てて唇を離すとやっぱりまつげがふるふると震えた。それから緩やかに瞼が押しあがって、至近距離で目があった。

「あ、」

 その瞬間先ほどまでもてあそんでいた唇から漏れたため息がふわりと頬をなでて、鼓膜を揺すっていく。絡み合った視線が嫌いじゃないだなんて、どうかしていると思ってはいるのだけれど。だからその瞬間に漏れた甘ったるい音の吐息は無意識だった。
 倉間はその吐息に、本当に少しだけ、困ったように眉をしかめて、――ついと顔を逸らした。それが照れ隠しだなんてことは、すでに承知なのだけれど。

「南沢さんはキスするときずっと目ぇあけてるわけ?」

 お互いのため息のもたらした甘い空気に肺がなじむより先に、倉間は普段の調子で言葉を紡いできた。若干かすれ気味のその声がぶつけてきた言葉はとても生意気だと思うのだけれど、そんなところもかわいいと思えてしまうのだから恋は盲目という言葉はあながち間違っていないんだなと思う。

「お前の必死な顔、おもしろいからな」

 解釈しようによっては熱烈な愛の告白なのだけれど、残念ながら―否、予想通りというべきか、こちらがからかっていると思ったらしい倉間はむっとした表情で睨んでくる。

「・・・・・・いつか、南沢さんのまじキス顔みて笑ってやりますからね」

 ぼそりと呟かれたその言葉に、のどからこみ上げてくる笑いは、けして倉間のいったことがおかしかったからではないのだけれど、きっと倉間には伝わらなかっただろう。いつかなんて言わなくてもいますぐにだってその目を開けば見えるのにだとか、そんないつかが早くくればいいのにと思ってしまうくらいには甘くふやけた自分の脳みそだとかにこぼれてきた笑いなのだけれど、倉間にとってはやっぱりからかわれているように感じたのだろう。本気ですからね、俺、やりますからね!と何度も何度も言ってくる倉間に、もうずっと負けっぱなしであることを知っているのは、まだ自分だけでいい。


急かさず潤して

(この気持ちをもっと実らせて)


(2012/01/16 * title)
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