きらきらとオレンジ色の光が散った。吹き付ける風は冷たく、空も透明度を増していて、夜が来るのもだいぶ早くなっていた。だからこのオレンジ色で染められた教室もほんの数分したら藍色へと変化していくのだろう。その瞬間がきらいではなかった。見慣れた教室ががらりと姿を変える、夕と夜の狭間の時間。だからといってこの話題が適切ではないことには、話始めてから数秒もたたないうちに気がついた。胡乱気にこちらを見る視線の持ち主がかきあげる紫の髪の間からきらきらと光が散って、二人の間に落ちた。

「あ、っと」

 その視線に見つめられるとどうしても言葉が出てこなくなってしまう。普段から喋りがうまいとは言い難いけれど、南沢の前にいるとそれはさらに悪化していくような気がした。続かない言葉に、ぱくぱくと口を開閉させる。喋りがうまくないことを自覚しているのに、そしてそれが南沢の前だとさらにひどくなることもわかっているのに、南沢と二人でいるとなにかを喋らないといけない気持ちになる。あまり物事に興味がなさそうな南沢の、その視線を少しでもいいからこちらに向けてほしい。練習のない放課後に、どちらかの教室で言葉を交わすようになってどのくらいたつだろう。いつだってできる限りその視線を、その興味を引けるような話題を探すのだけれど、今のところ勝率は一割程度と言ってよかった。
 こちらのことをどう思っているのかわからない視線から逃げるように俯いて、下唇を噛む。先ほどよりもだいぶ明度を上げた光が茶色い机に反射して目に染みた。じん、と広がっていく気持ちがなんなのか、痛いくらいにわかっている。はじめは恋愛感情どころか、先輩としても好きになれないと思った。それなのに気がついたら一緒にいる時間が少しでも欲しくて、それが叶ったらその視線も、興味も欲しいだなんて、一体なにがあったのかと自分に問い詰めたい。――問い詰めたところで答えが出た試しはなく、いつだってそれが恋なのだなんて大雑把な結論しか見つけられないのだけれど。

「倉間」

 つんとした痛みに負けそうになった瞬間、ふわりと名前を呼ばれた。その声に釣られるかのように顔を上げる。視線がもう一度ぶつかったとき、心臓が先ほどとは違う痛みを訴え始めるのを感じた。

「続けろよ」

 右手で頬杖をついて、いつものようにどこか斜に構えた、だけど確かな甘さを含んだ笑みをした南沢は視線が合うと、そう言った。言葉の意味を理解するのは一瞬遅れて、だけどその前に冬の冷たさを含んで冷たいはずの鼓膜を揺らす空気がひどく熱を持っていたから、まず自覚したのは頬の熱さだった。一呼吸おいてからやっとその言葉の意味を理解して、そうして今度こそ心臓の奥の方からせり上がってくる熱が、逆に言葉を見失わせることをこの人はわかってやっているのだろうか。

「お前の話、ちゃんと聞いてるから」

 何も言わないこちらに一体何を思ったのか、なぜか少し照れたように暮れゆく空に視線を投げた南沢はぼそりとそう続けた。だからそれがこちらの言葉をどこかにやってしまっているのだといいたいのだけれど、呼吸三つ分くらいあとに出た言葉は「南沢さんが好きなんです」なんて脈略のない言葉だった。その言葉に少しだけこちらに視線を戻した南沢はだけれどやっぱりすぐに視線をはずして、「知ってる」なんて言うのだ。暮れゆく寸前の光がひらりと窓から差し込んで、やっぱり紫の髪を透かして零れていく。その情景がどうしようもないくらい好きだから、この時間が好きなのだと気が付く。すでにオレンジに染まるはずのない南沢の頬がほんのりと赤い気がして、心臓が柔らかくとくんと跳ねた。


オレンジ色の光に溶けた



(2011/12/25)
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