真夏日


 じりじりと肌を焼く太陽は、お昼休憩をはさんでさらに熱を持ったように感じた。じわりと額に滲んだ汗が眉間を滑って眼鏡の鼻当ての部分を滑らせる。おかげで普段なら顔の一部であってサッカーをしていてもあまり気にならない眼鏡という存在を、否が応でも気にしてのプレイをしなくてはいけなくなってしまった。ただでさえ暑いのは嫌いだと言うのに不快なことこの上ない。八つ当たりをするような気分で雲ひとつない空を睨んでみると予想以上に大きく、真上にあった太陽にくらりと眩暈がするような感覚を覚えた。慌てて視線を地面に落として、ぱちぱちと瞬きをする。さいあくだと、舌の上で転がすように呟くとホイッスルが鳴り響いた。どうやら休憩が入るらしい。

「はーやみ!」

 一つ息をこぼして、ユニフォームの襟元でぐいと首筋の汗をぬぐおうとしたらそれよりも先にどんと後ろから熱の塊にぶつかられた。誰かなんてのはその声と、そもそもこんなことをしてくる相手が一人しかいないのとですぐにわかる。ただでさえ、高い体温の持ち主なのにひっついてくるなんてバカじゃないのかと思うけれど、その唐突な熱に息が詰まってしまってなにか文句を言うことはできなかった。まぁ文句なんて言ったところで自分がその明るさに巻き込まれて落ち込むだけなのは目に見えているから、言わなくてよかったのかもしれないけれど。
 なにも言い返さないこちらをおよ?という顔で見つめた熱量の持ち主である浜野はそれでもすぐにいつもの通りに気にしないことにしたのか、右手に持っていたスポーツドリンクをこちらの顔の前に突き出してきた。

「あ、ありがとう」
「どーいたしまして!速水、すっごい汗だなー」

 抱きついたままの姿勢で首筋を嗅ぐように鼻をすりつけながらそんなことを言う。唐突なその行動にせっかく口に含んだドリンクを吹き出しそうになってしまって慌てて飲みこんだらむせた。

「や、やめてよ」
「んー?」

 ごほごほと苦しい息の中そう訴えてみるけれどどうやら聞いてくれる気はないらしい。べったりとひっついたままの背中からじわりと体温が上がって、冷えていたはずのスポーツドリンクも沸騰してしまうんじゃないかと思うくらいだ。走っている時よりももっとひどく高鳴る心臓をどうにかしたくて、離れてくださいよ、もう一度小さい声でそう言うとしかたないなーといってやっと背中に風が通るようになった。深呼吸を一つしてみたけれど生温い空気が肺に落ちただけだった。

「なぁ速水ー」
「なに」

 せめて少しだけでもいいから温度を下げたくて日影に向かう。さも当然のようについてくる浜野に突っ込むことはたぶん、余計暑さを覚えるだけだからやめることにした。くいくいとこちらの顔を覗き込みながら呼びかけてくる浜野に対して少し冷たく答えてやる。勿論そんな些細な感情の変化なんて気にしないだろう浜野は、なぜかにこにこと笑いながら次の言葉を紡いだ。

「眼鏡、邪魔じゃないの」

 さっきもすごい直してたよなー。
 そんなことを言ってなぜかまっすぐに浜野の腕が眼鏡に向かってきたから慌てて顔をそらした。頬をかすめた浜野の手はだけど眼鏡には到達せず、ちぇっと唇をとがらせてだって邪魔だろー?となおも言い募る。だから邪魔だけど外したらサッカーできないですよとそっぽを向くと、なぜか視界の端でにやりと笑ったのがわかった。
 
「じゃあ俺が手を引いてやろーか」

 緩やかに、スポーツドリンクを持っていない方の手を合わせながらそんなことを言う。一瞬なにを言われたかも、なにをされたのかもわからなくて反応が遅れてしまう。きゅっとそのまま握られてしまえば逃げることなんて不可能だった。とくんと心臓がまた高鳴った気がして、先ほど手を握られたことに驚いて合わせてしまった視線はすぐにはずした。

「……それじゃあ練習できないでしょ」

 精一杯呆れたように言ってやるとそれもそうかぁと浜野が笑う。やっぱりまた体温が上がったような気がするのはけして浜野の笑い方のせいとか、手を握られているという事実が心臓をはねさせているからなんかじゃなくて、少し傾いたせいでせっかく入った日影に日が差し込んできたせいなのだ。


(2011/08/12)
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