動いたらほどけてしまいそうなくらい緩く、小指だけでヒロトと繋がる。もしかしなくても恋人繋ぎなんかよりもよっぽど恥ずかしいかもしれないことに気がついたのは、手を繋ぐことを拒んだこちらに妥協案として小指だけでいいよと言ったヒロトにしぶしぶ了承をして少したってからだった。一度気がついてしまえば繋がったことを意識してしまった小指が、一気に熱を持ったようで恥ずかしくなるのだけれど、ヒロトは離してくれる気はないらしくて逃げようとするとヒロトのこちらよりも綺麗で長い小指が強い力で引きとめてくる。
 文句を言おうかと思ってちらりとヒロトを窺うけれど、空を見つめる視線がどこかさみしそうだったから言葉を見失ってしまった。ヒロトの視線の先にある暗い色をした空には、ちかちかと切れかけた街灯によって白く浮き上がる雲が幾重にもかかっていて、東から来る、こちらのポニーテールを揺らした風は確かに湿気を含んでいて、もしかしたら明日は雨なのかもしれないと思う。

「やっぱり曇っちゃったね」

 何も言わないヒロトをぼぉっと見つめていると、いつの間にこちらを向いたのかへにゃりと笑ったヒロトが視界に広がった。どうしてか心臓がどきりとして、きっとそれは繋がった小指から伝わってしまっているのだろうけれど、慌てて目を逸らす。

「なななな、なに?」

 ちょっとどころか完璧に脈略のない返答に、今度はぷっと吹き出したヒロトは「流星群」と単語だけを言った。りゅうせいぐん?オウム返しにそう返して、それからやっとヒロトのやりたかったことに思い至った。そういえば少し前に流星群が来るのだというニュースを見たような気がする。最近ほとんどの気持ちをサッカーに傾けているせいですっかり失念していたけれど。慌ててばっと空を見上げるけれど、そこには先ほどと同じように薄い雲がかかっていて、残念ながら星を拝むことはできそうにない。むぅと口をとがらせるとやっぱりヒロトは笑った。ころころと夜に落ちていくような笑い声が湿気を含んだ風に攫われて夜空に散っていく。

「あ、けど」

 きゅっと小指を強く握ったのに意味なんてないのだけれど、なんとなくそうしなければいけないような気がした。そういえば大抵そんなそぶりなんて見せないけれど、いつも心の中で一番残念がっているのがヒロトであることを、さすがにこんなに長いこと近くにいれば知らないわけないのだ。慰めるなんて言葉は似合わないけれど、だけどしゅんと眉を下げたままのヒロトの顔を見ていたくないから慌てて言葉を紡いだ。

「もしかしたら届くかもよ。こんなに風が強いから」

 きっとヒロトのお願いも星まで届くよ!
 勢いよく言ったこちらの顔を、二度三度瞬きをして見つめたヒロトは最初に見せたみたいな少しだけ情けない、だけどそれよりも少しだけ困ったような笑顔を見せた。また心臓がどきんと跳ねて、視線がぶつかっていることが恥ずかしくなって逸らす。小指が繋がっていない方のヒロトの腕がまっすぐこちらに伸びてきて、頬に触れた。熱を与えあった小指よりもだいぶ冷たいヒロトの指先にびくりと肩を跳ねさせる。ヒロトの顔がずいっと近づいてきて、閉じ損ねた目に綺麗なヒロトの瞳が映った。

「けど、今のお願いは星に届かなくても大丈夫なんだけど」
「へ?」

 吐息がぶつかるくらいの距離でそう言われて、またもや間抜けな声が漏れてしまう。そんなこちらの反応を気にしないヒロトは、繋がった小指をつなぎ直して、それから至近距離で二コリと笑う。

「キスしたいな、緑川と」

 風に飛ばされないように耳元でささやかれた言葉に、大げさなくらい心臓がはねた。



こゆびとこゆびでつなぐしあわせ



(2011/08/13)
(pixivの基緑記念日企画に投稿させていただきました!)
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