※まさかの百合。ご注意。
※基山も緑川も女の子ですが名前はそのままです。




 女の子は砂糖菓子でできているんだって。

 放課後、誰もいない教室はオレンジ色に染め上げられていて、しめてしまった窓の向こう側から運動部の掛け声や、吹奏楽部の練習の音が聞こえた。くるくるとペンに横髪を巻きつけたりしながら日誌を埋めていた私はその言葉に顔をあげる。唐突にそんなことを言ったヒロトはオレンジに染められて、にっこりと笑っていた。
 先生に見つかったら怒られそうなくらいにだらりと緩められたリボンと、挑発するように第二ボタンまで外されたブラウス。そこからのぞく透き通っているのではないかと錯覚してしまうような白い肌と、彼女の少し飛び出た鎖骨が作りだした影が妙に生々しくて、どきりとする。華美ではない、だけどレースをあしらった下着がヒロトが少し身体を動かすだけで見え隠れしていて、やっぱり心臓に悪かった。

「マザーグースだっけ?」

 居心地の悪さにあげた顔を一瞬で日誌へと引き戻す。頬がほんのりと熱いのはきっと、夕日のせいだということにした。ヒロトほどではないけれど、控え目に緩めたリボンと第一ボタンだけはずしたブラウス。比較するのも申し訳ないくらいに白さとは無縁の自分の肌にため息をつきたい気分になった。そのため息の代りに吐きだした言葉は少しぶっきらぼうになってしまったけれど、ヒロトにはそんなこと関係ないようだった。ふふ、と甘ったるい笑い声で空気を揺らす。
 確かにヒロトだったら砂糖菓子でできていてもおかしくないなと思う。少し触ったら崩れてしまいそうな脆さが彼女にはあった。それは外見だけの話で、実際は結構意地悪で嫌味だったりもするのだけれど。その白い肌も、飴玉みたいな翡翠の瞳も、それから綺麗に伸ばされたピンクの爪先も、誰かに作られたかのように思えた。

「ねぇ、緑川、緑川を舐めたら甘いかな」

 そういってヒロトの指先がするりと頬を滑る。
 先ほどと違った直接肌を撫でるぞくりという感覚に背筋を震わせる。指に仕向けられるままに絡まった視線は容易には外れそうにはなかった。ふわりと笑うヒロトを染め上げていたオレンジはもうだいぶ弱まって、そのせいで頬に集まる熱の言い訳はもうできそうになかった。

「……私が甘いわけないじゃん」

 もうどうしようもないくらいに跳ねあがっている心臓の音はヒロトに伝わってしまっているだろう。やっぱり微笑むだけのヒロトの指先に逆らえないまま、ぼそりと呟く。そらそうとした視線を許さないというようにぐいと近づいてきた顔。ほんとに?ヒロトの口が音を伴わないでそう動く。至近距離の睫毛がぱしぱしと揺れて、それからその桃色の唇からふわりと、思った通りの甘い香りが漂ってきた。耳元までうるさいくらいに響く鼓動に思考はうまく定まらない。身体じゅうから侵食してくる甘さがどろりといたるところを溶かしていくような気さえ、する。

「甘いのは、ヒロトの方でしょ」

 私早く日誌書かなきゃいけないんだから。
 それでもなんとかそういって、近すぎるその顔から逃れる。つまらないなぁと少し頬を膨らませたヒロトはそれでもすぐに嬉しそうに日誌の乗った机に頬杖をついてこちらを見た。日誌書き終わったら、甘いのは緑川だって教えてあげるよなんて、至極迷惑なことを言うけど日誌を埋めるのに必死で聞こえないふりをした。―それでもきっと、逆らえないのは目に見えているのだけれど。
 ヒロトの言葉は、ヒロトの行動は、私を少しずつ甘くどろどろに溶かして見動きをできなくさせる。もし私が甘いと言うのならば、それはきっと全部ヒロトのせいだと思った。


Sweets make me sweet!


お互いを甘くしていく、砂糖菓子の女の子が二人。



(2011/05/24 * title)
back
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -