*拍手ありがとうございました(*´∀`*)
*お礼文はきどふど/基緑/基緑+10/天京/マサ蘭の5つです。ランダムです。
*このお礼文は【基緑+10】になります



※24歳


 なにか暖かいものが触れた気がして、うっすらと瞼を開けた。見慣れたオフィスの白い壁は薄暗くて、ブラインド越しには光が伝わってこないからもうとっくに日が暮れたらしい時間であることを知る。ぼんやりとした頭でそっと身じろぎをするとスプリングが軽く音を立てた。暗くてよく見えない文字板は、どうやら19時を回ったことを告げているようだった――そこまで認識して慌てて勢いよく飛び起きる。ばさりと腹の上からブランケットが転がり落ちて、「あれ」とそれをかけてくれたらしい人物から声が上がった。

「ごめんね、緑川。起こしちゃった?」
「え、いま、何時」

 闇の中でひどく目立つ赤い髪の持ち主は翡翠の瞳をぱちくりと瞬かせて、ふふっと笑う。七時半かな、と悠々と言ってのけるものだから慌てた気持ちが一瞬沈みかける。――否、思いなおす。18時くらいまでの記憶は確かにある。目の前で微笑んでいるこの男と一緒に例の件についての報告書に追われていたはずだ。ホーリーロード決勝戦が終わり、子供たちは一応の決着を見たけれど、大人にはまだまだやらなければいけないことがたくさんあった。不正財政やドラゴンリンクの件について調べていた自分たちは特にそれが多い。だからここのところきちんと寝れていなくて――なんていうのは言い訳にはならないことを知っている。起こしてくれればいいのに、というヒロトへの怒りが筋違いなこともよくわかっている。
 身を起こしたこちらの隣にすとんと腰をおろしたヒロトはやっぱり笑っている。社長をほっぽりだして寝てしまったわけで怒ってくれればいいのにと思うけれど、ヒロトはとてつもなくこちらに甘いのだ。たぶん、こんな時間になっても電気をつけなかったのは光でこちらが目覚めることを危惧したからだろう。――ばか、と思うけれどその優しさがひどくくすぐったいのも事実で、だからきゅっと身を縮こまらせて「ごめん」と言った。

「ごめんはいらないな」

 ヒロトはひどく不満そうに唇を尖らせてそんな風にうそぶく。普段ならば社長、品位が落ちますだなんて叱るところだけれど今日はやめてやる。ヒロトが求める言葉はわかっていて、それは今まで何度だって自分たちの間で交わされてきた言葉だ。好きとか愛しているよりも、もしかしたらキスの数よりも多いかもしれない。ヒロトの目を見る。翡翠の瞳に映る自分はどうしようもなく幸せそうで、きゅんと心臓が鳴る。
 その瞳の色に促されるままに先ほどよりも小さな声で「ありがと」と落とした。ヒロトはその言葉に笑って、笑って、「俺も、ありがと」なんて言うのだ。



(星の数ほど、ありがとう/capriccio




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