(※たぶん中学生)


 そっと口に含んでみると、別に甘くも辛くもなかった。まぁ、当たり前だけれど。風呂上がりのせいか、石鹸の匂いだけがひどく気になった。ヒロトが身じろぎしたせいで、ヒロトが座っていたベッドが軋んだ音を立てた。
「……あの、緑川?」
 困ったようなヒロトの声を聴くのは久しぶりだなんて思いながら(たいていヒロトは人のことを困らすことばかりする)、ちらりと前髪の隙間から見上げると、声と同じように困ったような顔をしたヒロトと目が合った。翡翠の瞳には困惑という文字が大きく浮かび上がっているみたいで、つい笑ってしまいそうになった。残念ながら口が塞がっているからそんなことはできなかったけれど。
 ぺろり、と。
 ヒロトの、いつもならばシューズに包まれてボールを操る足の親指の、硬くて大きな爪をなぞるように舌を動かして、そうしてちゅっと音を立てて離れる。そんなに長い時間そうしていたわけではないのに、口の端から飲みきれずにいた唾液がたらりと垂れた。
「えっと、お腹すいてるの?」
「さっき一緒にご飯食べたでしょ」



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