幼馴染み
感極まったみなに潰された私は医務室で目が覚めた。
『ん……。』
「琢磨!良かった!目が覚めたんだね。」
『伊作か…。ここは…医務室か…。』
「琢磨〜?大丈夫かぁ?まさか気絶するとは思わなかったぞ!」
「………すまん。」
『いや、長旅で疲れてたのと女になってやはり少しやわくなってしまったみたいだ;』
「なにー!?鍛練が足りんのだ!今日から俺と夜に「やかましい」ゴフッ!」
「お前はイチイチ暑苦しい。医務室では静かにしろ。」
「仙蔵!殴ることねぇだろ!」
「お前は殴らなきゃわかんねぇだろ。はっ。ざまぁねぇな。」
「なんだと!留三郎やるのか!?」
「あぁ?!喧嘩売ってんのか?!」
「ねぇ…二人ともうるさいんだけど?」
「「すいません」」
『はっはっはっは。』
半年ぶりにみる懐かしいやり取りに胸が温かくなる。私がこうして変わってしまっても変わらずに接してくれる親友たちがいてくれて良かった。
小平太に後ろから抱き付かれながら入り口付近で正座して伊作に説教をうけている二人を眺めていたら医務室に物凄い勢いで近づいてくる気配に気づいた。
「あいつだな。」
『多分な。大方小松田さんあたりに帰ってきたのを聞いたんだろうな。』
仙蔵とクスクス笑いながら話していると近づいてきた気配が医務室の前で止まり勢いよく襖を開けた。
バーーーン!!
「琢磨!帰ってきてるって本当!?倒れたって聞いたんだけど?!」
勢いそのままで入ってきた群青色は入り口にいた伊作を吹き飛ばして私に飛び付いてきた。
『兵助…;伊作が飛んでいってしまったぞ。』
「あ、すいません。善法寺先輩。これっぽっちも視界に入らなかったので気付きませんでした。」
「中々言うな久々知。」
怒られていた留三郎が「伊作ぅぅー!?大丈夫かぁ!?」と叫んでいるのが見えるので手助けは無用だろう。
「久々知!琢磨は倒れて今起きたところなんだ!飛び付いたら危ないだろうが!だから離れろ!」
「嫌です!飛び付いたことは謝りますけど離れません!七松先輩こそ琢磨から離れてください。」
「断る!」
ギャーギャーと人をはさみながら言いあいをするのはやめてほしいんだが…。困っている私に気づいた長次と仙蔵が二人を引き離してくれた。離れる際「「あぁー!何するん(だ、ですか)!長次!(立花先輩!)」」と声を揃えていた。仲が良いのか悪いのか。
仙蔵に引き離されたがめげずに兵助はまた私に引っ付いてきて胸に顔を埋めた。前と違いふくよかになった私の胸に兵助がハッとした。
「あっ!琢磨!女の子になってる!」
『あぁ。実はな…。』
「じゃあ昔言っていた言い伝えは本当だったんだな!"香月"!結婚しよう!」
「いやいやいやいや。ちょっと待て!色々と突っ込みたいところがあるんだが?」
「結婚ってどういうことだ!私は許さないぞ!」
「七松先輩に許してもらわなくても結構です。"香月"と私の問題ですから。」
またもや小平太と兵助の言いあいが始まりやれやれとため息をついていたら長次と仙蔵に話しかけられた。
「……久々知の言っていることは本当か?」
『結婚のことか?』
「もう一つ気になったことがあったが先ずはそれからだな。」
『結婚の話は兵助と私が幼馴染みなのは知ってるよな?昔から兵助は私に引っ付いていて大きくなったら結婚しようってずーっと言っていたんだ。だけど私はその時はまだ男だったから男同士で結婚は無理だって言ったんだ。そうしたら兵助がギャンギャン泣いてな;どうにもこうにも困り果ててその頃に聞いたばかりだった言い伝えを兵助に話したんだ。それでもし女になったら結婚しようって。幼かった私はこの言い伝えが本当になるなんて思ってなかったし、兵助が泣き止むならと思って話したら「約束だよ!」って笑顔になったからその時はそれで良かったんだが、まさか本当に女になってしかもあの約束を兵助がまだ覚えていたとは思わなかったがな。』
「お前は昔から久々知に甘いんだな。」
『ははは;小さい頃から私になついてくれててな。可愛くて仕方がないんだ。』
「琢磨!私は?私も可愛いだろ?」
『あぁ。小平太のことも可愛く思っているよ?』
「へへへー♪」
小平太を撫でているとムッとした顔の兵助がさらに私に抱きついてきた。
「"香月"!約束しただろ?女になったら俺のお嫁さんになってくれるって!俺それだけを信じて今まで頑張って生きてきたんだぞ?!」
「…かなり重いな。」
「サラッと言ったがかなり重いな。」
『うーん;』
「子供の頃の約束なんだろ?そんな細かいことは気にするな!琢磨は私と結婚したら良いんだ!」
「お前まで参戦するな!ややこしくなるだろ!」
「まぁ取りあえず二人のことは置いといてさ、"香月"ってどういうこと?」
意識を取り戻した伊作とそれを支えながら留三郎も話の和に入ってきた。
『そうだ!もう一つ大事な事を言い忘れてた。本当は先生方も交えて話したかったんだが取りあえずはみなに伝えておきたいことがある。』
私のその言葉に喧嘩していた小平太と兵助も大人しくなり私の話に耳を傾けた。
『まぁ兵助は幼い頃から一緒だから知っているんだが、"琢磨"というのは私の本当の名前ではないのだ。』
「さっき久々知が"香月"と言っていたが?」
『それが私の本当の名だ。"琢磨"というのは頼原家の当主が代々継ぐ名前なんだ。私の父も"琢磨"と名乗っている。私は女になって当主の資格を無くしたからな。"琢磨"と名乗る必要が無くなったんだ。これからは"香月"と呼んでほしい。』
性別に続いて名前まで変わるなんてみなにはかなり迷惑をかけてしまう。だけどそんな私の親友たちは嫌な顔一つせずに笑顔で答えてくれた。
「ってことは琢磨…じゃなかった香月の家は跡取りがいなくなったってことなのかい?」
『いや、弟が一人いる。これからは弟が"琢磨"の名をついで当主になるんだ。弟は赤髪で生まれていないから呪いの心配ないからな。』
「そっか。じゃあこれからは"琢磨"は"香月"として女として生きてくんだな。」
『ああ。改めて、苦労をかけると思うがよろしく頼む。』
「「「「「「おう!」」」」」」
名前のことも言えたし、これで心置きなく学園生活がおくれるな。
「「で、香月!どっちと結婚するんだ!?」」
『………人がしんみりとしているのに…。今まで男同士だったのに急にそんな風に見れるか!馬鹿どもめ!兵助もいつまでも昔の話を言ってるんじゃない!本当に私が好きなら約束がどうのこうの言わず惚れさせてみろ!小平太も今まで親友だったやつが求婚してくるんじゃない!』
わかったか!と二人を叱りつければ二人はシュンと小さくなってしまった。
「わかった…。じゃあこれから頑張るから俺のこと男として見てくれる?」
『まぁ…。兵助しだいだな。』
ニヤッと挑戦的な笑みを浮かべると兵助は真っ赤になりながら「じゃあ頑張る。」と頷いていた。
「琢磨!私も!私も頑張るから!」
『…………。お前はまず呼び名からだな。私はもう"琢磨"ではなく"香月"だぞ?』
本当にわかってるのか?と不安になる。しかもこいつらはモテるだろうに何故私に求婚してくるのか謎だ。
「よし!まぁこいつらの話は置いといて飯食いに行こうぜ。腹へったー。」
「うむ、もう夕飯時だな。久し振りに香月も揃ったことだ。みんなで食べるか。」
賛成ー。と言いながらパラパラと立ち上がり食堂に向かう。食堂についてからは兵助と小平太がどちらが隣に座るかでまた喧嘩し始めたので二人に拳骨をお見舞いして私を真ん中にして両隣に二人が座ることで落ち着いた。
当たり前の毎日はこんなにも騒がしく幸せなんだなと久し振りのおばちゃんの美味しい御飯をたべてしみじみと思った。
明日からは後輩と顔合わせをする。不安もあるがこいつらがいるから大丈夫だな。
先生方には名前のことはまた明日改めて説明しよう。
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