幸せの定義

鬱蒼と木々が生い茂る森の中を一人の少年が木々を伝い走り抜けていた。
彼の顔には焦りが見える。そう、彼は今追われている。忍務に向かったしろで運悪くプロ忍に見つかってしまったのだ。


(はぁはぁ…。相手は三人…!一人でも俺には対処しきれないのに三人だなんて!)


死に物狂いで逃げてはいるがやはり相手はプロ。遊ばれてるのが目に見えている。


「おーい。もっと頑張って逃げないと死んじゃうぜー?」


ニヤニヤと屈辱的な言葉を投げ掛けられ普段なら冷静でいられるところも今の彼には全くその余裕がなかった


(どうする?!巻物を奪われるわけにはいかない。ここで戦うしか…!)



「余所事考えてると死ぬぞ?」



「かはっ…!」



少年が逃げること以外を考えた一瞬の隙をついてプロ忍は攻撃を仕掛けてきた。
素早い蹴りが彼の背中に入り体が吹き飛ぶ。その先にあった木にぶつかり口からは血が流れた



「足はまぁまぁ早かったな。……さぁ巻物を渡してもらおうか」



(ここまでか…)



彼が諦めかけ、忍が彼に近づこうとした瞬間…



『おい』



「「?!?!?!」」



少年と忍の間に突如人が現れた。音も気配も全くなく現れたのだ



「だ、誰だ!?」



『ん?私か?そうだなぁ…通りすがりの一般人だ!』


「お、女?!嘘をつくな!気配もなく現れてお前も忍だろう!?」


『いや?本当に違うぞ?知り合いが忍ではあるが私は普通の人間だ』



急に現れた人物に周りは驚きを隠せなかった。音も気配も無く現れただけでも驚きなのに格好から見るに女性だ。長い黒髪を下で束ね小袖をきた女性だ。



「普通の人間、しかも女がこんなとこになんのようだ!?」


『何も用はなかったんだが、知り合いとよく似た服を着た少年がお前たちに追いかけられていたからついてきたんだ。少年大丈夫か?』



「は、はい。」



かなり戸惑っていたが雰囲気から察するに敵ではないようだ。それでもプロ忍と対峙するこの女性はいったい誰なのか?



『うむ、お前らはこの子の敵みたいだな。よし、私が退治してやろう!かかってこーい!』


「な、何をふざけたことを!」


『こないのか?じゃあこっちからいくぞ?』


と、言った瞬間に目の前から彼女が消えた
すると遠くから敵の悲鳴が聞こえてきた



「な、なんだ?!何処に行ったんだ?!」



『ここにいるぞ?』



「ひっ!」



消えたと思ったら急に忍の後ろに現れた



「いったい何をした!?」


『邪魔くさかったからこいつらを先に捕まえてきた。ほら。』


ドサッと音がして三人のうちの二人が気絶していた


「貴様…!只では帰さんぞ!」


そう叫びながら忍が苦無を構えながら突っ込んでいった。それを軽々とよけ、左足で忍の顎を蹴りあげ気絶させた



(忍を蹴りの一発で気絶させるなんて……)



味方で良かった。と少しぞっとした少年。
そうこうしている間に忍の三人を縄で縛り上げ武器を全て取り上げ彼女が戻ってきた。


『少年怪我はないか?』

「は、はい!ありがとうございます(綺麗な人だな…)」


『礼には及ばない。歩けるか?』


「大丈夫…」


です。と言葉にしようとしたが立とうとした瞬間に右足に激痛を感じて声にならなかった。


「つぅ…!」


『うむ、右足が腫れているな。よし送っていこう。』


「!いえ、平気です!自分で帰れます!」


『しかし、立てないだろう?大丈夫!場所はわかっている!忍術学園の生徒だろう?』


「何故それを?!」


『忍の知り合いが忍術学園の者なんだ。だから心配するな!』


忍術学園の者だとバレてしまうとか、場所がわかってしまうとかそういうことを考えていたが、意味がなかったみたいだ。しかし、女性につれてってもらうのはなんだか情けなく感じてしまう(プロ忍を倒してもらった時点で意味は無いが)


『よし!いくか!』


「えっ…?」


彼女がそう言った瞬間に浮遊かんが襲い彼の体は担ぎ上げられていた。



(う、嘘だ?!)


プロ忍を倒したり自分を軽々と担ぎ上げたりもう彼女に対して何を驚いたら良いのか分からなかった


(しかし、誰かに似ている)


行くぞー!と風を切りながら走る彼女の背中でそんな考えが頭をよぎった



******************




一刻もたたぬうちに忍術学園の門が見えてきた


普通に門の所から入るのかと思いきや彼女は勢いそのまま塀を乗り越えてしまった


「えっ?!ちょっ、ダメですよ!ちゃんと門から入らないと!」

『そうなのか?まぁ細かいことは気にするな!』

「気にしますよ!!それにもうすぐ…」

「ちょっとちょっと〜!駄目じゃないですかぁ。入門表にサインしてからじゃないと学園にははいれません!」

『サイン?名前を書けば良いのか?……ほいっと。』

「はーい!ありがとうございます!もう、これからはちゃんと門から入ってくださいね?えーっとお名前は……えっ?」

『ん?どうかしたのか?』

「貴女もしかして、な…「ドカーン!!」ギャーーッ!!」

「小松田さん?!」

『おぉ!大丈夫か?』


彼女が名前を書き終え小松田が確認しようとしたらいきなり砲弾のようなものが飛んできて彼にぶつかった。ぶつかった彼は目を回して倒れてしまった。


「これは…バレーボール?ということは…」

「おーい!こっちにボールが飛んでこなかったかぁ?」

「やっぱり六年ろ組体育委員会委員長、七松小平太先輩!」

「おー。そういうお前は五年い組火薬委員会委員長代理、久々知兵助!ボール飛んでこなかったか?」

「飛んで来ましたよ!そして小松田さんに当たってノビてしまいました!」

「そうか!それはすまなかったな!まぁ細かいことは気にするな!」

「全然細かくありません!」

『おい!』

「あっ!すみません;」

急な乱入者が現れたことによってここまで連れてきてくれた女性を忘れていた。慌てて謝り彼女に向き合うが彼女は自分を見ておらず七松を見ていた。そして七松は何故か顔を真っ青にしていた。


「七松先輩?(そういえばさっきから気になっていたんだが、もしかして)」

『久しぶりだな小平太。私に挨拶は無しか?そんな育てかたをした覚えは無かったんだが?』

「あ、あああ姉上!」


やはり。ここに来る前から誰かに似てると思っていたがこれですっきりした。そうだ学園の暴君七松小平太にそっくりなのだ。


「姉上、どうしてこちらに?文をいただいた記憶は無いのですが…」

『小平太』

「はいぃぃ!」

『挨拶は?』

「こんにちは姉上!ご機嫌麗しゅうございますか!?」

『うむ。機嫌はまぁ良いぞ。』



驚いた。あの暴君がこんなにもペコペコしているのを初めてみた。ボールをおってきた体育委員会のメンバーや騒ぎを聞き付けてやってきた生徒もポカーンとしている


「な、七松先輩こちらの方は?」

「!滝夜叉丸か!こちらは私の姉上の七松睦だ!姉上ここにいるのが私が委員長を勤める体育委員会のメンバーです!」

『そうか。私の名前は七松睦だ。いつも愚弟がお世話になってるな。お前たちのことは小平太からの文でよく書かれていたから知っているぞ。』

「七松先輩の姉上様でしたか!私の名前は平滝夜叉丸と申します!武芸成績全てにおいて優秀で、グダグダグダグダ…」


滝夜叉丸のいつものが始まってる間に体育委員会のメンバーが挨拶していく


「それで姉上、今日はいったいなにようでこちらに参られたのですか?」

『お前の顔でも見ようかとブラリと歩いていたんだがそこの少年が忍に襲われていたからぶちのめしといたんだ。それで足を捻ったみたいなのでここまで連れてきたんだ。』

「そうだったんですか!」

「すいません!助けていただいたのに挨拶もせず…改めまして久々知兵助と申します!危ない所を助けていただいた上にここまで連れてきていただいてありがとうございます!」


久々知のこの台詞に周りがザワザワしだした。忍に襲われたというのにも吃驚したがいくら七松の姉とはいえプロの忍を倒すとは…


「流石姉上ですね!相変わらずお強いです!」

「おい!小平太!お前の姉上は忍なのか?」

「いや、姉上は普通の娘だ。私より強いがな!」

「なにーーっ?!」


これには更に周りを驚かせた。何度もいうが七松小平太は暴君と言われるほどの強者だ。そんな彼より強いとは…半信半疑だが上級生からは戦ってみたいという好戦的な視線が送られていた。


『ところでお前、久々知だったか?』

「は、はい!」

『年はいくつだ?』

「じゅ、十四になります!」

『うん…十四か。もうすぐ元服だな!ちょうど良いお前が気に入った!私の嫁になれ!』

「え…?」


えーーっ!?と更に周りを驚かせた。いったい何度驚けばすむのか。


「姉上!どういうつもりですか?!」

『可愛い顔してるしな!真面目で素直そうで私の好みだ!伴侶を探していたしな。中々これというやつが見つからなくてな!』

「しかし、自分より強いやつでないと駄目だと…。」

『私が鍛えるから大丈夫だ!』

「あの…;俺男なんで嫁にはいけないんですが…」

『細かいことは気にするな!』


七松小平太の姉だ…!そして久々知、突っ込むところが違うと思うが…


『私がお前を気に入ったから問題ない!』

「いや、でも…『うるさい』ムグっ?!」


久々知が反論しようとした所を睦が口で塞いでしまった


「ん…!はぁ!」


二人の濃厚な口づけに周りは呆然とし上級生は下級生の目を塞いでいた
漸く離された久々知は顔を真っ赤にしポーッとしていた。


『ん…。まだ何か言いたいことはあるか?』

「い、いえ。ありません…。」


睦の口づけにヤられてしまった久々知はフラッとしてしまい睦に支えてもらっている


『よし!お前は私の嫁に決まりだ!しかし、ちゃんと卒業はしなければならないからな、これからは私がここに通ってお前を鍛えてやるぞ兵助!』

「あ、姉上私は認めま『私に文句を言うなら勝ってからにしろ』はい…。」

「おい!兵助!お前本当に良いのか?!」

「う、うん。睦さん綺麗だしお強いし逆に俺なんかで良いのかな…?」

「いかん。目が恋する乙女だ。」

『兵助!今日はもう帰るがまたすぐに来るからな!お前の休みには逢い引きしよう!』

「は、はい!これから末永くよろしくお願いします!」

『おう!じゃあな!小平太!兵助が今日からお前の義兄だから大事にしろよ?』

「姉上〜;」


キッ!と七松に睨まれてしまい久々知は縮こまってしまう。そうか彼女と結婚するということは彼が義弟に…


『兵助』

「はい!んー!?ふっ…ぁ…!んぅ……。」

『ちゅっ…。…よし!でわな!』


爽快と堀を越えて彼女は去っていった。(小松田さんが待てー!出門表にサイーン!と言いながら追いかけていったが)
最後にまた濃厚な口づけをもらった久々知はもう何でもいっか、と思ってしまった。


それからは睦がちょくちょく学園に現れては久々や上級生を鍛え上げる姿や久々知の休みには仲睦まじく町へ出掛ける姿を見るようになった。
無表情と言われる久々知のその顔はとても幸せそうでそれを見つめる睦も幸せだった。
なんだか男女が逆のような恋人達だが二人が幸せなのだから良いのかな?



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