めまい

それなりに恋をしてきた
けどこんなにも衝撃を受けたのは初めてだった







その日俺はいつもつるんでる奴らとは別に一人で出掛けていた。仲の良い俺らは結構毎日一緒にいるから一人で出掛けるのは久しぶりだ
秋がおとずれそろそろ寒くなってきたので防寒着などを見に行こうとブラブラしていて今は信号待ちだ。
携帯をポチポチと触りながら何気なく交差点の向こう側に視線をやる




電気が体を駆け巡った




一目惚れとかそんなもの俺はしないと思っていたが今まさにしてしまった


色素の薄い髪がふわふわと揺れ、伏し目がちなトロンとした目、すっげぇまつげ長い。そして桜色した唇。


やっべぇ可愛い



信号がかわった瞬間俺は生きてきたなかで一番速かったんじゃないかってスピードで彼女のもとへと走った



『あ、あの!』


「…………?」



勢いで声をかけてしまったがナンパなんてしたことない俺はなんて話しかければ良いのかわからなかった。こんなことなら三郎たちと行っとけば良かったとどうしようもない後悔をしていた
とりあえずはい、サヨナラだけは避けたい。何とか頭を捻ったがありきたりな言葉しか浮かんでこなかった


『……今時間ある?』


「…ありますけど」


『なら!ご飯でもいか、ない?』


「……良いですよ」


可愛い顔に反して思ったよりもハスキーな声だ。服もボーイッシュな感じでスレンダー美人
初めてのナンパは何とか成功してご飯を食べにいくことになった




食事をしながら名前や年をお互い話していく
名前は「綾」年は俺の1つ下で18才らしい。しかもなんと俺と同じ大学に通ってるとか。世間は狭い。まあ学部が違えば会わない奴もいるわな
たわいもない話をしながら連絡先を交換してその日はそれで別れた



それからちょくちょくと連絡をとるようになりやっぱり彼女のことが好きだと思った俺は告白することにした


『綾、俺、綾のことが本気で好きなんだ…だから、付き合って欲しい』


我ながら捻りもなんにもないシンプルな告白だった。でも彼女はいつも無表情な顔をしていることが多いがその時は頬を染めながら


「僕も、彪流が好き…」


って言ってくれて思わず抱き締めてしまった(女の子なのに僕って言うところもまた可愛い!)



お付きあいすることになった俺らは順調に交際を進めていった。クリスマスにはちょっと奮発してディナーを食べにいったり、指輪をプレゼントしたら凄く嬉しそうな顔をしてくれて幸せだった(ちなみに俺は時計を貰った)正月には一緒に初詣に行ったり(晴れ着姿の綾は最高に可愛かった)そんな感じで凄く順調なお付きあいを続けていた




************


大学の学食で俺らはいつものメンバーで食事をしていた


「雷蔵何にするんだ?」


「うーん;A定食にしようかB定食にしようか…それとも日替わりにしようか…」


「ありゃしばらく掛かるな;」


「俺たぬきうどーん!」


「俺はAだな。豆腐がついてる」


「相変わらず豆腐だな;彪流は?」


『ちょっと待って。メール返してから』


「例の彼女か?」


『そうでーす』


「相変わらずラブラブなこって」


『羨ましいか?』


「うっせぇ」


こいつは八左ヱ門。俺の幼馴染みだ。高校は違ったが大学からはまた一緒で腐れ縁だ。兵助や勘右衛門、三郎と雷蔵も八左と同じ高校で俺だけ違ったが八左繋がりでみんな仲が良い


「そういやいつ彼女に会わしてくれんだよ」


「写メとかないわけ?」


『写真とか嫌がるんだよ。可愛いのに…』


「とか言ってすっげぇ不細工だったりしてな」


『綾は超可愛いから!お前らもみたら惚れるから!』


「はいはい、ノロケは良いからさっさと飯選んでこいよ。雷蔵も選び終わったぞ」


『えっ!?マジで!?』


「うん。三郎がBで八がA頼むから今日は日替わりにしたんだ」


『そっか!んじゃあ俺も日替わりにしよーすぐとってくるな!』


「転けるなよ」


『わーってるって』



綾は何故か写真を嫌がる。クリスマスとか一緒に写メくらい撮りたかったけど何故か悲しそうな顔をされたから無理強いは出来なかった。それに付き合ってから一回も大学で会ったことがない
昼とかに誘っても時間が合わなかったりで今まで出会うことがなかった
俺としてはこいつらに彼女を紹介したい。っていうか自慢したい。写メもないし会ったこともないから本当は不細工なんじゃないか?とかあいつらが言うから腹が立つ。綾は世界一可愛いっつーの。
だから綾にはこいつらがいるのは内緒で昼御飯一緒に食べないかってメールしたら最初はちょっとごねていたが来てくれるみたいだ。やっとこいつらに紹介できる。俺はウキウキしながら昼食を取りにむかった




『あ、言い忘れてたけど今から彼女くるけど良いか?』


「えっ!?ついに彪流の彼女を拝めるのか!」


「さっきのメールはそれか」


『そうだよ』


「食事前に見ても大丈夫な面なのか?」


「三郎!」


『お前殴られたいのか?』


「嘘嘘!冗談じゃないか、そう怒るなよ」


「お前の冗談は過ぎるぞ;」


『今こっちに向かってるみたいだからさ。お前ら変なことすんなよ』


「「「「「はーい」」」」」



返事だけは良いんだから。さっきメールが返ってきたからもうすぐ来るはず。入口付近をチラチラ見ていたら綾が入ってくるのが見えた。大学で綾を見たのは初めてなので俺は少しドキドキしてしまった


周りに人がいるのにも関わらず俺は思わず大きな声で綾のことを呼んでしまった



『綾!こっちだ、こっち!』


「ついにご対面ですかぁ〜」


「どれどれ〜」


入口から背をむけていたこいつらは俺の声に反応して振り向く
こちらに向かってきていた綾も俺の友達がいるのに気付いたのか伏し目がちな目をパチクリさせてこちらを見ていた。でもそのあと下を向いて足を止めてしまった
黙って連れてきたことに怒っているのかな?それにしては漂う雰囲気が怒りとは違うものを感じて綾に近づいていく


『綾?どうしたんだ?友達もいること黙っていたことに怒っているのか?』


「…………」



綾はうつむいまま何も言わない。口数が多い方ではないけれどこんな態度は初めてで俺は戸惑ってしまった


「おい、彪流。彼女って…」


『ああ、悪い悪い。紹介するよ。俺の彼女の綾。可愛いだろー?』


俺が綾の肩を抱きながら紹介するとみんなポカーンとした顔をしていた。なんだ可愛すぎて見とれたか?動かなかったこいつらだがいち早く覚醒した八左が俺たちに走りよってきて何事かと思えば綾の胸ぐらを掴みやがった



『は!?ちょ、お前なにしてんの!?』


「どういうつもりだ」


「……………」


「なんとか言えよ!ふざけてんのか!?」


『お前マジで何なの!?人の彼女に何してんだよ!!お前らもとめてくれよ!』


「なあ彪流。本当にお前の彼女なのか?」


『はああ?』


「お前ら確かキスまでしかしてないとか言ってたな。エッチしようとしたら拒否されたって」


『おいいいい!!綾の前で言うなよ!徐々にで良いんだよ俺は!綾、違うからな?身体が目当てとかそんなんじゃないからな?まあ俺も男の子ですからしたく無いわけではないけど…って違う違う!何言わせんだよ!』


確かにそういう雰囲気になると綾は拒んできた。だからってそれがなんだって言うんだ。別に綾がしたくないなら俺は無理強いはしたくないから気にしていなかった。
さっきから何なんだこいつらは人の可愛い彼女にたいして失礼すぎないか?みんなを見渡すと何故かみんな綾のことを睨み付けていた。えっ?何なの?マジで


「……彪流。ここだと人の目もあるから移動しよう」


『俺、全然話についてけないんだけど…当事者だよね?俺?とりあえず八左いい加減綾のこと離せ!』


俺がそういうと渋々だが綾から手を離す。綾はさっきから黙ったまんまで何にも言わない。怖くて何も言えないのか?本当何があったんだ?



『綾、俺の友達のこと知ってたの?』


「………うん」


『そっか。言ってくれれば良かったのに。俺、お前らの間に何があったか知らないけど気にしないよ?』


「……………」


「彪流。話がずれるからとりあえず出よ?」


『………わかった』


「気にしないとか言ってられなくなるぜ?」


『はあ?』


「まあまあ!さっさと行こう!中庭とかで良いんじゃない?」


「そうだな」



様子のおかしい綾が気になったがこいつらの様子もおかしかったので渋々従い俺たちは中庭にむかった




***********



「どういうことか説明しろ」


「……………」


『なあ、いったいどうしたんだよ。綾お前らに何かしたのか?』


「……彪流。本当に気づいてないの?」


『だから!何がだよ!?説明してほしいのは俺だ!』


「こいつは俺らの後輩だ」


『あっ、そうなの?』


隣にいる綾に尋ねるとコックリと頷いた。それがどうしたんだ?みんなを見つめ返すと相変わらず怖い顔で綾を睨んでいる。後輩だからってこの態度はないだろ


『だからなんなんだ?』


「あほ。思い出せ。俺らの高校は…「喜八郎!」」


三郎が何かを言いかけたときこちらに向かって名前を呼びながら走ってくる子がいる。綾には負けるけどこの子も中々別嬪さんだな。ってか喜八郎って?


「喜八郎!お前!何しているんだ!あっ、先輩がたおひさしぶりです。」


「滝夜叉丸……」


『えっ?どういうこと?喜八郎って?は?』


「お前…まだ言ってなかったのか……」


「…………」


『え?え?』


「彪流」


『は、はい』


「俺らの高校は男子校だ」


「そしてこいつの名前は綾部喜八郎。」


「歴とした男の子だよ」


頭が真っ白になって開いた口が塞がらない。どういうこと?え?何をいってるんだ?


「どういうつもりだ喜八郎。彪流のこと馬鹿にしてんのか?」


「僕たちの友達だって知っててこんなことしたの?」


「……………」


「答えろ!!」


綾は俯いたまま何も言わない。綾の友達の滝夜叉丸君(この子も男の子なんだろな)が焦ったように八左達に詰め寄る



「ち、違うんです!先輩がた!喜八郎はそういうつもりではなくて…」


「じゃあどういうつもりがあればこんなことになるんだよ」


「そ、それは…」



なんだか俺たちをほおっておいて周りが揉めている。俺は隣にいる綾に向き直って問いかけた


『綾。いや喜八郎か…俺のこと、騙してたのか…?』


「…………」



俺が喋りだしたことにより周りは言い合うのをやめて俺たちを見る


『綾、正月に振り袖で来てたりしてたじゃん?あれも騙すため?俺のこと騙して笑ってたのか?』


「……………」



綾は何も言わない。俺は色々とありすぎて泣きたくなってきた。


全部嘘だったのか?プレゼントしたとき喜んでくれたのもキスした時に赤らんだ顔も。初詣のお願いでずっと一緒にいたいっていってくれたのも





『好きだって言ってくれたのも全部、嘘だったのか…?』





俺は声や手が震えるのをなんとか堪えながら綾に問いかける。するとさっきまで俯いていた綾がバッと上を向き泣きそうな顔をしながら俺を見つめる


「違う…!」


『何が違うんだよ…何があってて、何が違うんだよ…俺、わけわかんねぇよ……』



みんなこんな俺を見るのは初めてでどうしたら良いのか分からないような空気が漂う。そんな中綾がポツリポツリと話し出した


「…最初はご飯だけおごってもらうつもりだったんだ」


『………』


「こんな見た目だから女の子に間違われることはよくあったしナンパされることもあった…みんな見た目だけで僕に寄ってきてあんまり喋らないからつまらなさそうに帰っていくし、僕もご飯が食べれるからまっいいかなって思ってたんだ。だから初めて彪流に会ったときも軽い気持ちでご飯だけ食べてサヨナラなんだと思ってた」


初めてあった時を思い出す。確かに綾は口数が多い方ではないけれど時折見せる微笑みや絶対に俺が喋ってるときに目をそらさなくてじっと聞いていてくれたり…そんなとこが可愛いなって思ったんだ


「でも…彪流はそれからも会おうって言ってきて僕といて凄く楽しかったって。今まで付き合ってきた女の子とかは何考えてるのかわからなくてつまらないとか言われてたけどそんなこと一切言わなくて本当に僕といて楽しそうにしてくれてたんだ」


綾、付き合ってた女の子とかいたんだな。俺はまだ綾が男だと信じれないとこがあったので少し複雑だ。けど綾のことつまんないとかなんだそれ?自分から付き合ってほしいって言ってきたくせにそう言って去ってく子が多かったらしい。だから恋愛って馬鹿馬鹿しいなって思ってたんだって



「彪流は僕のこと女の子だって思ってるのはわかってたけど彪流といるのが居心地よくて中々言い出せなくなってた…彪流に告白されて嬉しくて女の子だって思われてるけど騙すことになってしまうけど、それでも一緒にいたかった」


「言わなきゃ、言わなきゃ駄目だって…でも、いつのまにか彪流が…彪流のことが凄く好きになってて…彪流と離れたくなくて…言えなかった…」



ごめんなさい。と言ってまた俯いてしまった。騙したくて騙したわけじゃないってみんなも分かったみたいでもう誰も綾のことを責めるみたいな目では見てなかった。




俺は




『俺は、…綾が好きだ。』


「え…」



みんなビックリして俺を見る。綾も涙を浮かべながら俺を見つめていた



『確かにびっくりした。でも、綾が、喜八郎が好きなことは変わらないよ?男だって聞いて正直まだ信じれないけど…でも喜八郎が喜八郎なら俺の気持ちはかわらない。俺の方こそ嘘つかせてごめんな。ずっと辛かっただろ?』


「彪流…!」


喜八郎は堪えきれなくなった涙を溢して俺に抱きついてきた。何度も何度もごめんなさいと呟いて、振るえていた。


「彪流はそれで良いのかよ」


『…おう。男と付き合うとか初めてだけど俺は喜八郎自身が好きだから関係ないや』


「そっか…」


「まあ彪流が良いって言うなら俺らは何も言えねぇけどさ」


「喜八郎良かったな」


「うん…」


滝夜叉丸君に肩を叩かれそう言われると喜八郎は嬉しそうな顔を浮かべた





それから俺たちは何も隠すことが無くなったので学校内でもちょくちょく会うようになった。喜八郎は甘えん坊で俺に引っ付いては離れなくて授業に遅れそうになると滝夜叉丸君が迎えに来てくれたりそれが日常になっていた


俺の家に泊まりに来たときに風呂から上がった喜八郎が上半身裸の姿を見て少し微妙な気持ちになったが喜八郎であることに変わりはないからそれで良い


来年の春から一緒に暮らす約束をした俺ら。あの衝撃を受けた出会いから違う意味でも衝撃を受けたが俺はかわらず喜八郎が好きです



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