◇ 順番なんて関係ない!
これはいったいどういうことなんだろう。頭がガンガンする…とりあえず頭の中を整理してみよう。まずここは間違いなく私の部屋。布団で寝ていた。しかし何も着ていない。何があったんだ?
昨日の記憶が思い出せない…気だるい体と寝起きの頭をフル稼働させ記憶を呼び起こす。
(昨日はくのたまで野外実習があった。結構キツイ内容でヘトヘトになりながら夕方に帰ってきた。うん!そうだそうだ!で、それから眠ってしまいたかったが余りにもドロドロだったのでみんなでお風呂に入りに行ったんだ。それで部屋に帰って布団をひいてさぁ寝よう!と思ったら…ん〜……あ!急に紐でぐるぐる巻きにされて何事!?って思っていたら三郎が目の前にいたんだ。で、飲み会するぞ☆キラッとかウザイ態度で連れてかれて五年のみんなでドンチャン騒ぎをした。うんうん。段々思い出してきたぞ!それで夜も更けてきた頃にそろそろ帰ろうとしたら雷蔵に送ってこうか?って聞かれたけどそれを断って一人で帰った。…………帰ったら裸?いや、違う…)
私は頭が痛いのを我慢してさらに記憶をさぐる
(そうだ…帰りにフラフラ歩いていた作兵衛を見つけたんだ。それで酒も入っていてかなり絡んだはずだ)
※回想
「あ、黒琥先輩。こんばんわ」
『さーくべえじゃん!はい、こんばんわー』
「うわっ!黒琥先輩酒くさっ!飲んでたんですか!?しかもこっちは忍たま長屋じゃないですか!?あんた何してんですか!?」
『へへぇ〜。だって三郎に連れてかれたんだもーん』
「だもんじゃないですよ!女がこんな時間にこんな場所にいたら危ないでしょ!?しかもこんなにフラフラして!俺がくのたま長屋まで送ります!」
『大丈夫だよーほら真っ直ぐ歩けてるし?』
「全然歩けてませんよ!?ほら、行きますよ!」
『えっ!?ちょっとまた紐?何?忍たまで流行ってんの?Sなの?みんなSなわけ!?私めざめないからね!』
「訳のわからないことを…もうみんな寝てるんですから静かにしてください!」
『作兵衛のほうがうるさいと思いまーす!』
「…(イライラする)」
そう作兵衛に出会って紐で縛られて部屋に連れていかれたんだ。それから…
「先輩の部屋どこですか?」
『んーもうちょっと真っ直ぐ行って右。ってかもう大丈夫だよ?作兵衛こそこんな時間にくのたま長屋にいたら誤解されるよ?帰りも罠だってあるし』
「…いえ。先輩をちゃんと送り届けないと気になるんで」
『そっかぁーありがとうー。あっ!ここだよ!ちょっとあがってきなよ。私一人部屋だし。』
「いえっ!俺はここで…」
『良いから入んなさいよ!』
「うわぁ!」
『はははは!』
私は呼び起こした記憶に段々と青ざめて行くのが分かった
(…そのあと作兵衛を部屋に連れ込んで…隠してあった酒を飲ましたんだ…何やってんだ私…ってことはもしかして…!)
私はさっきから無視していた布団の中に感じる温かい存在に目をやる。そして思い切り布団を剥いだ。
そこにいたのは私と同じ真っ裸の作兵衛がすぅすぅと寝息をたてていた。
(ま、まさか…)
嫌な予感がした私は自分の下腹部に手をやる。そこからはドロッとした液体が流れ落ちていた。
(まさかのまぐわい…!まさかの中だし…!少年相手に何してんだ!死ね!昨日の私死ね!)
私は頭を抱えて項垂れる。取り乱しているバヤイじゃない。みんなが起きてくる前に作兵衛を起こさなければ。
『作兵衛…作兵衛起きて…』
「………んだよ…さみぃ…」
『作兵衛…!』
「うるせぇなぁ…女みたいな声出すんじゃねぇよ…三之助……」
『三之助じゃないから!』
「左門…?」
『違うって!私!黒琥睦!』
「黒琥先輩…?えっ…?」
やっと目を覚ました作兵衛は私の存在に気付き飛び起きる。
「えっ!?黒琥、せんぱ、えええー!?」
『しーっ!声が大きい…!まだ朝早いしここ、くのたま長屋だよ』
「な、な、な、せんぱ、うえ!?」
『うるさい!』
吃驚しすぎて大きい声を出す作兵衛の口を塞ぐ。顔を真っ赤にさせて私を見ないようにギュッと目を瞑っていた。(そうか裸のまんまだった)
『落ち着いた?』
「全然…」
『そうだよね;……昨日のこと、覚えてる?』
「………おぼろ気に」
『だよね…お酒飲んでたし、私も今思い出したところ』
「せんぱい…おれ、もしかして…」
『ああ…;うん、言いたいことはわかるよ。作兵衛の考えてるとおりだよ』
「おれ、俺…!なんてことを…!」
『え!?ちょっと!?』
ガバッ!と立ち上がり目にもとまらぬ速さで服を着て作兵衛は部屋を飛び出していった。外からギャーッという叫び声が聞こえたが罠にかかったのかただ単に叫んだのかはわからない
(ええー!?作兵衛行っちゃったし…ってかどうするよ私…三年生に手出すとか飢えてたのか!?そうなのか!?)
また頭痛がしてきて頭を抱える。このままじゃ授業にも出れないので後処理をして服を整える
(あいつに相談するか…)
段々頭の冷えてきた私はとりあえずそう考え授業に向かうための準備を始めた
(作兵衛が走り去ってから何故か心がモヤモヤする)
**************
放課後。私は一人の忍たまを捕まえて相談に乗ってもらうことにした
『実はかくかく然々で…』
「ふむふむ…ってわかるか!ちゃんと説明しろ!」
『えー。』
「えーじゃない!相談したいことがあるからって言うから付き合ってやってるのにその態度はなんだ!私だって忙しいんだぞ!」
『どうせイタズラに行くか雷蔵のストーカーでしょ』
「…………」
『否定しろよ』
「うるさい!で、なんなんだ?相談って?」
私は面倒臭そうにする三郎に掻い摘まんで昨日の出来事を話した。
「おまっ、あの後にそんな濃厚な出来事があったのか」
『濃厚過ぎて胃もたれしてきたよ…』
「…お前はどうしたいわけ?」
『わたし?』
「ヤっちまって後悔してるのか?嫌だったのか?」
『……後悔って面では下級生に何してんだよっとは思うけど嫌だとは思ってないよ』
「じゃあ富松のことどう思ってるんだ?」
『どうって…普通に後輩として…』
「はぁ…お前がここまで馬鹿の鈍ちんだったとわ」
『なんのことよ?』
「お前、酔っぱらってたからってなんとも思ってない男を部屋にあげるのか?」
『それは…送ってもらったお礼に…』
「じゃあ富松が他のくのたまの部屋にいたらどう思う?」
『それは嫌だ』
妙にキッパリと言いきれた。作兵衛が他のくのたまの部屋にいるなんて考えたくもない。なんだかモヤモヤしていたのが晴れていく感じがした。
『私…作兵衛が好きだったんだな…』
「私には丸わかりだったけどな」
『そんなに分かりやすい?』
「恋とは自分では気付かないもんで人から見れば分かりやすいもんさ」
『三郎だけじゃないの?少なくとも八や兵助は分かってないと思う!』
「あいつらは論外。で、どうするんだ?」
『どうするもこうするも作兵衛逃げちゃったし…嫌われちゃったよ…』
ズーンと暗い気持ちになり畳に手をつく。三郎は雷蔵なら絶対しないニヤニヤした顔でこっちを見ている
『その顔気持ち悪い』
「お前!雷蔵に失礼だろ!謝れ!」
『存在が気持ち悪い』
「私お前の相談に乗ってたんだが何?この扱い?」
『いつものことでしょ。それより!もー!これからどうしよー!』
「あのなぁ…;富松はお前が嫌いで逃げたわけじゃないと思うけど?」
『なんでそんなことわかるのよ』
「普通に考えて裸の女がいたら吃驚するし、しかもそれが先輩だったらかなり取り乱すんじゃないのか?あいつ確か妄想激しいし」
『うん…まぁそれもそうか』
「とゆーより富松がどうとかじゃなくてお前がどうしたいかが大事じゃないのか?」
『私が、どうしたいか…』
足りない頭で考える。考えるのは苦手だ。でもこのまま作兵衛と気まずくなってしまうのはもっと嫌だ。私はどうするか…どうしたいのか…
『三郎』
「なんだ?」
『私、行ってくる!』
「…富松なら今委員会で昨日七松先輩が壊した壁を直してるはずだ」
『作兵衛のストーカーもしてるの!?』
「違うわ!今日食堂で食満先輩が愚痴ってたのが聞こえただけだ!」
焦ったぁ。本当にただの変態なのかと思った。でも三郎には感謝しなくちゃな。気持ちに気づけたし
『三郎』
「ん?」
『ありがとう』
「………おう」
三郎に礼を言って私は走り出した。だから私がいった後に三郎が呟いていた言葉なんて私は知らない
「……好きなやつの好きな人くらい見てればわかるわ。……ばーか」
*************
三郎の言っていた壁のところにくるとそこでは用具委員会のみんなが作業をしていた。探していた作兵衛もいる。高鳴る気持ちを押さえて作兵衛に声をかける
『作兵衛』
「!!!黒琥、せんぱい…」
振り向いた作兵衛はこの世の終わりとも言えるような真っ青な顔をしてこちらを見た
「おおー睦じゃねぇか。どうしたんだ?手伝いに来てくれたのか?」
『留三郎先輩…すいません!作兵衛をお借りします!』
「黒琥先輩!?」
「お、おい!ちょっと待て」
作兵衛の言葉も留三郎先輩の言葉も無視して私は作兵衛の手を掴み走り出す
人のいない場所につき私は作兵衛の手を離した。
『ごめんね?委員会中だったのに急に連れ出して…』
「い、いえ!気にしねぇでください!(食満先輩怒ってっかな…俺殺されるんじゃ…)」
相変わらず青い顔のまま視線をキョロキョロと落ち着きなく動かしている。嫌われちゃったのかな…でも私の気持ちはキチンと伝えなくては…
『作兵衛…あのね…今から言うこと吃驚するかも知れないけど本当のことだからちゃんと聞いてくれる?』
「は、はい!」
ビシッと棒のようにたち構えてしまっている。告白するのにビビられてるってどうなの?
『作兵衛、私怒ってるわけじゃないんだよ?』
「そ、うなんですか?でも…昨日…」
『作兵衛は怒ってないの?』
「そんな!俺が怒るだなんて痴がましいです!」
『じゃあ嫌じゃなかった?私と…まぐわって』
「えっ!?」
私の質問に顔を真っ赤にして右往左往しだす。不謹慎だがちょっと可愛いって思ってしまった
『私は嬉しかったよ』
「黒琥先輩?」
『どうやら作兵衛のことが好きみたいなんだ。自分でもさっき気付いたんだけど』
「えええーー!?」
『だから声が大きいって!』
「す、すいません;」
作兵衛はいったい何に驚いたら良いのか分からない見たいで唸っている(お得意の妄想を繰り広げているのか?)
好きって気持ちは伝えた。もう一つ肝心なことを伝えなくてはいけない
『作兵衛が好き。だから私と…』
「はいっ!」
『結婚してください!』「はいい!?」
私の言葉と作兵衛の叫びと共に近くの木から数人人が落ちてきた。気配でなんとなくわかっていたが
「アホかお前ー!!物事には順序ってものがあるだろ!?」
「そうだ!睦!作兵衛はまだやらん!」
『三郎うっさい。留三郎先輩はただの先輩なんですから黙っててください』
「おい!作兵衛もなんとか言ってやれ!」
「お、俺、あの、その…」
「ほらみろ!富松も困ってるじゃないか!子供を困らせるな!」
『黙れ』
横からギャーギャー言われるが知ったこっちゃない。さっきまで私の告白に戸惑っていた作兵衛だが三郎の言葉にピクッと反応して俯いてしまう
『作兵衛?』
「俺、」
「作兵衛お前はまだそんなこと考えなくていいんだからな?お前にはまだ早い!」
「……俺、確かにまだ子供です。今はまだ何にも出来ねぇ子供です。身体は、その、大人になった部分もありますがまだまだ未熟者です…でも!それよりも男として情けねぇです…黒琥先輩にそんなこと言わせてまぐわっておいて責任もとらねぇなんて…中にも出しちまったしもしかしたら子供もいるかもしれねぇのに…情けねぇ俺ですけど先輩と子供を守れるくらい強くなります!俺からも言わせてください。…俺の嫁になってくだせぇ!」
「「えええーー!?」」
『作兵衛…嬉しいけど責任とかそんなんでしょいこまなくても良いんだよ?私は作兵衛が好きだからそんなんで結婚とかも寂しいし…』
「いえ、先輩に先に言われて吃驚して取り乱してしまいましたが今日一日考えていたんで、ちゃんとした俺の気持ちです。………黒琥先輩のこと嫌いじゃねぇですし…」
私の告白に戸惑いながらも真剣に答えてくれる作兵衛の姿に胸がいっぱいになる。顔をフイッと横にむけながら嫌いじゃないって言ってくれた作兵衛の耳は赤かった
『作兵衛〜!嬉しい!真剣に考えてくれてたんだね!私嫌われたと思ってたよー!黒琥先輩なんて堅苦しい!名前で呼んで?私も富松になるんだし』
「泣かないでくださいよ;睦先輩…」
『なぁに?』
「子供の名前はなんにしますか?」
『そうだねぇ〜。何にしようか〜。まだ出来てるかはわかんないけどね?』
「それなら二人で仲良くしていきましょう」
『作兵衛!もう…大好き!』
「わぁ!きゅ、急に抱きつかないでください!今はまだわかんないんですから身体を大事にしてください!」
『は〜い』
まぁまだ結婚するのは作兵衛が元服するくらいになるだろうから先の話だろうけどね。それまで二人で愛を育んでいこう
※そして忘れ去られた食満と鉢屋
「なぁ」
「はい」
「俺は何処から突っ込んだらいいんだ?結婚のことか?中だしのことか?子供か?」
「私にもわかりません。展開が早すぎてついていけない」
「作兵衛が…俺より先に大人になってゆく…」
「食満先輩?………駄目だ魂抜けてる」
順序なんて関係ない。だって好きだから。それで良くない?少なくとも私たち二人は幸せです
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