甘いものならなんでも好き?
入学して一ヶ月、今日も朝から翔に起こされノソノソと着替えてから朝食を食べるために二人で食堂まで向かっていた(彼女は放っておくとお菓子ばかり食べるため朝食も翔が見張っている)
時間に余裕を持って起こしにきてくれたためのんびりと食堂に向かっている途中すっかり花の散った桜の木が前髪の隙間から見え六花はふとあることを思い出した


『・・・、翔ち〜ん』


「ああ?なんだ?」


『あのね、七海、春歌って知ってる?』


「七海?ああ、A組のやつか。」


『多分そー』


「知ってるぜ。どうした?お前が他の奴、ましてや他の組の奴のこと聞いてくるなんて」


入学してからほぼ一緒に過ごしているが六花が事務的な用事以外で他の人間と話しているのを見たことがなかった翔は疑問に思った


『生徒手帳拾ったー』


「?いつだ?」


『入学式んとき』


「ばっ!?おまえ!もう一ヶ月以上たってるじゃねーか!」


『うん。忘れてた』


「忘れてたじゃねーよ;ったく、もう今は時間がねーからまた昼休みにでも行くか」


『翔ちんついて来てくれるの?』


「お前一人だと心配だからな」


『ありがとー』


唯一見える口許を緩め弧を描く。目が見えないぶん口許や雰囲気でこの変わった友人の喜怒哀楽を判別しなくてはならないが毎日一緒にいるだけあってだいぶとその変化が分かるようにはなった
常にお菓子を食べているし、目許を前髪で隠しているし、自分よりかなり身長も高いし(?)変わっているが翔はこの友人が嫌いではなかった
でなければ先生に頼まれたからといって毎日朝起こしに行ったりなどしない
前を機嫌良さそうに歩く六花を見て翔はそんなことを思いながら食堂へと足を進めた



******



食堂につき野菜を食べようとしない六花にあれやこれやと世話を焼く翔。周りから見れば親子か恋人のような二人(大半が前者だと思っているが)Sクラスで格好良く目立っている翔に話し掛けたい女生徒は沢山いたが、背が高く、前髪で顔を隠し何を考えているのか分からない違う意味で目立っている六花が怖かったり、何より見せ付けるかのような二人の雰囲気に(二人にそんな気は毛頭ない)近づけず遠くから六花に嫉妬の篭った視線を送ることしか出来なかった。
六花は帝光時代から幼なじみがキセキの世代の一人だったため良くそのような視線を受けていたので何とも思っていなかったが、芸能界に入るための学校に来ているのに才能に羨むならまだしもこのような視線を送られることに些か呆れてはいた。
意外と何も考えてなさそうだが人の感情には敏感で、それは子供っぽい幼なじみや顔に出さない帝光バスケ部主将の感情の変化を見逃すまいとした結果なのだが。
ちらりと前髪の隙間から翔を見る。六花自身も翔のことが嫌いではなかった。野菜を食べろと煩いが六花の事を考えての行動であるし、一緒にいて気が楽であった。翔は周りの視線に気づいてないようだし、こちらに危害を加えるようなモノではないので改めてまあいいか、と思っていた。ふと、視線を翔から外し前を見るとこちらに向かって走り寄って来る人間がいた。


「しょーーーちゃーーーーん!!!」


「ぎゃあーーー!!」


「最近毎朝毎朝何処に行ってるんですかー?僕もう心配で心配で…」


「心、配、するくらいなら、今の、状況を見て、ものを言えっ!!つ、潰れる………」


走り寄ってきた男子生徒は翔に抱き着いたかと思うと翔を絞め殺さん勢いでギュウギュウと抱きしめている。身長差があるため翔の足が地面から浮いていて窒息してしまいそうだ。これには六花もポカーンとするしかなかった。ある程度抱きしめて気が済んだのか翔を降ろしやっと隣に座っていた六花に気がついたようだ


「あれ?あなたはいったい?」


『…………あんたこそ誰?』


「僕ですか?僕は翔ちゃんの同室でAクラス、アイドルコースの四ノ宮那月って言います。貴方のお名前も教えてもらえますか?」


『柳沢、六花。Sクラス、作曲家コース』


「翔ちゃんのクラスメイトさんですかー!初めましてよろしくお願いします。」


『・・・・・・ヨロシク』


那月の裏のない笑顔にほだされて普段は無愛想な六花も口許を緩め挨拶を返す。そこで漸く息の整った翔が那月を叩きつつ二人の会話に混ざってきた。


「那月ぃ〜俺を殺すきか!?」


『翔ちん煩ーい』


「そうですよー?それに痛いです」


「俺が悪いのかーー!?」


完全な被害者の翔に向かって避難の声をあげる二人にまた叫び声をあげうなだれた。そんな間にも二人は波長があったのかホワホワしながら会話を続けていた。


「へー、翔ちゃんが最近毎朝いなかったのは柳沢さんをお迎えに行ってたからなんですねー」


『そー。翔ちんが毎朝起こしてくれるから大助かり』


「朝が苦手なんですか?」


『うん。昔から苦手。前は幼なじみが起こしてくれてた』


「そうなんですかー。翔ちゃん何も言ってくれないから何処に行ってるか分からなくて心配してたんですよー。でもこれで安心ですね!」


『ね』


「でも、今まで食堂で会わなかったのは不思議ですね」


『もう一ヶ月はたつのにね」』


「そんなにたつんですか!?僕も誘ってくれたら良かったのにーっ」


『ね?』


先生に頼まれてるとは言え女子寮に男が行くのはどうかと思ったし、六花があまり積極的に人と関わっていく人間ではなかったので那月には紹介すらしていなかったが那月の性格を思えば考えすぎであったなと思った。
翔が肘をつき二人の会話を聞いているといつの間にかあだ名で呼び合うようになっていて微笑ましく眺めていたがいきなり那月が爆弾を落としてきた


「そうだ!!仲良くなった印にりっちゃんにお菓子を作ってきますね!」

『ほんとー?』

「はい!!りっちゃんは甘いものが好きなんですよね?僕料理が趣味なんです!是非食べてください!!」

『やった〜』


「ちょっと待ったーー!!」


お菓子と聞いて少しテンションの上がっている六花には悪いが、いや、悪くなどない。死人を出すよりマシだろうと思い二人の会話に割り込む。案の定不機嫌な雰囲気を出しながら六花は翔に顔を向けた


『なにー?翔ちん。いくら翔ちんでもお菓子はあげないからね?』


「いらねーよ!!じゃなくてだなぁ…」


那月に聞こえぬようコソコソしながら翔は六花に話し掛けた


「(いいか!那月の料理はな、兵器だ!)」


『(兵器?)』


「(そうだ!食えたモノじゃねえ。しかも本人に悪気や悪意がないのが困ったところなんだ)」


『(ふーん)』


帝光バスケ部マネージャーの料理とどっちが酷いだろうかと心の中で六花が考えてるのも知らずに那月はニコニコしながらどうしましたー?と二人を見つめていた。翔からは良いから食うんじゃねえぞ!と釘を刺されたがどんな味なんだろうと六花は命知らずの事を考えていた。










後日、那月が作ってきてくれたお菓子を笑顔で差し出され断り切れず食すはめになりマネージャー以上のマズさだった那月のお菓子にいつもならマズイとハッキリ言う六花も那月相手には言えず顔を青くしながら「個性的な味だね…」とコメントを返した。そんな六花を見て翔が涙を流していたとか

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