Tolerant | ナノ


  追いかけて


声がしたほうに走っていくと女を俺と久々知で追いかける。得体の知れない女。何も無いところから光に包まれて現れた不思議な女。くの一か?と疑いもしたがどんなに優秀なくの一でも何もないところから現れるなんて出来ない。俺たちだけで追いかけるのは危険かもしれないがほおっておいたほうが後々面倒なことになりそうだ。(それにさっきの叫び声には心当たりがある。まったく面倒を起こす天才たちだ)
一定の距離を保ちながら追いかける俺たち。少し進んだ先でやはり先ほどの声は自分たちの後輩であってしかも熊に襲われかけている。
助けたいのは山々だが如何せん女の距離があいつらに近すぎる。
女も熊を視界に映したらしく焦りながら持っていた私物をごそごそし始め何かを熊に投げつける。女が投げた物が当たった熊は呻き声をあげながら崩れ落ちる。
熊が動かなくなったことを確認した女はあいつらに近づき無事を確認しているようだ。
俺達は少しほっとしながら様子を伺うため木の上に腰を落ち着ける。
もし女が妙な動きをした場合すぐに動けるように苦無をしっかりと握りながら四人の会話に耳を立てる。
女は無事を確認した後三人に誰かと問われ自分でもよくわからないと答えていた。それが演技なのかどうなのかこちらに背を向けているため女の表情が分からず読み取れない。
女は三人にこの辺の子か?と尋ねていた。三人は警戒しながら(学園の敷地内に知らない人間がいるのだ)うなずいた。その返事を聞いた瞬間何を思ったのか女は三人を殴りつけ怒鳴り散らしていた。
俺達は女の急な行動にあっけにとられてしまった。用心はしていたつもりだが三人を助け心配をする女がそのような行動に出るとは思わなかった。敵を侮るなかれ。俺達は完全に油断していた。



「潮江先輩!」


「いや、まだだ。」



非力そうな女だがさっき熊を倒したように不思議な武器をまだ持っているかもしれない。もう少し様子を見ようと苦無を握りなおすとさっき倒れたはずの熊が動き出し四人に襲いかかろうとしていた。女は背を向けていたため気付いていない様子で三人が叫び声を上げたことで振り返りとっさに三人を突き飛ばしたようだ。反応が遅れた女は振り上げた手が肩をかすめ傷を負う。それでもなお三人を庇うように前に立ちどうすれば良いのか思案しているようだ。
さすがにこれ以上は見ているわけにもいかなくなり久々知と目配せをして熊の首筋に向かい苦無を打つ。急所を打たれた熊は今度こそ事切れたようだ。
急な事態にあっけにとられながら三人に動かないよう注意し肩の傷を庇いながら恐る恐る熊へと近づいていった。
女が熊を見ている隙に後ろへと降り立ち声をかける


「大丈夫か?」


『……!?』



急に後ろから現われた俺たちに驚いた女は声を荒げる。



『だ、誰?!何なの!いったい!』


「こちらも聞きたいことが沢山あるがそれよりもその肩の傷…」


「「「潮江先輩!久々知先輩!」



怪しい女だが後輩を庇って出来た傷を確認しようと声を掛けようとした俺の言葉を遮り三人が駆け寄ってくる。


「ぜんぱーい!!ごわがっだでずー!」


「うおっ!しんべヱ!お前は鼻水をかめ!」


「久々知先輩もう駄目かと思いましだー!」


「あぁ。もう大丈夫だ。潮江先輩が倒してくれたからな。」


『ま、待って!』



俺たちが心配し合うのを呆然と見ていた女が声を掛けてきた。


「なんだ?」


『貴方が、熊を倒したの…?』


「ああ。そうだが?」



急に倒れた熊を疑問に思ったのか女の質問に答える。すると女はカッと目を見開いたかと思ったら俺に掴み掛かってきた。


「「「「「?!」」」」」


『どうして殺したの?!何で殺したのよ?!なんて事するのよ!!』


「何を訳のわからないことを!そうしなければお前らが…」


『自業自得よ!!』


「!?」


『あんたたちこの森の近くに住んでるんでしょ?!ならこの森と共に生きてるのよね!?だったら今森に入ったらどうなるか……っ…!』



女は興奮してまくし立てるがそのせいで傷が痛んだらしく崩れ落ちる。それに気付いた乱太郎が近寄るが女は手を払いのけ拒否の言葉を投げつけ歩き出そうとする。



「ま、待ってください!」


『離しなさい!離して!は……ぁ……。』


乱太郎が止めようとするのも無視して歩き出そうとするので埒があかなくなった俺は女に手とうを入れる


「潮江先輩!!」


「安心しろ。気絶させただけだ。」


「先輩、この人どうするんですか?」


「取り合えず学園に連れて行く。」


「大丈夫なんですか?」


「こいつの手を見てみろ。とても人を傷つけるような手はしていない。…怪しいことこの上ないがな。」


久々知は少し納得のいかない顔をしていたが、先輩の俺が言ったことに従うようでそれ以上は何も言ってこなかった。
確かに怪しい。しかし後輩を助けてくれたりさっきのあの目は濁りが一つも無かった。この時代のこの年の女には珍しく澄んでいて真っ直ぐな目だった。それにこの手。
人を一切傷つけたことなどない、むしろ暖かく誰かを守ってきたような手。怪しさは拭えないが俺はこの女にそれ程警戒心を持っていなかった。



「でしたら先輩!急ぎましょう!肩の傷を早く治療しなくては!!」


「ああ。悪いがきり丸、そこの女が持っていた物を持ってきてくれるか?」


「は、はい!」


きり丸に女の荷物を頼み俺達は学園へと脚を向けた



ーーーーーーー
何故か守ってやらなければと守ってほしいと思った俺のこの気持ちはなんなのか?

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