双子違いです



陽「ヤベェ、喉渇いた」


夏でもないのに気温が高く、日陰にいても暑いというこの状況に耐え切れず、俺は何か飲み物を買おうとポケットに手を突っ込んだ。
ポケットには何枚かの小銭があり、小銭を全て手に取るとチャリンっと音が鳴った。お、結構あるんちゃう?
そんなことを思いながら、小銭が握られた右手を広げる。
……いや、確かにあるわ。あるけどな、これは酷いやろこれは。100円玉2枚に10円玉5枚に一円玉10枚はないやろ。何これ新手のテロかふざけんなよテロリスト共。


陽「(まあ、足りっからええわ…)」


俺は自動販売機がある方へ体を向け、何を買おうか考えながら歩き始める。
炭酸も捨て難いが、この前出てた新発売のやつも気になる。確か名前は…《輝け青春☆スッキリ風栄養ドリンク豚汁味》とかいうやつ。スッキリ風な上に豚汁味ってどーゆうことやねん。
グチグチと心の中でつっこんでいると、目的の自動販売機が見えてきた。よし、栄養ドリンク買ってみるか。
120円を右手に持ち、ゆっくりと自動販売機に金を入れる。えーっと、確かあれは上から三番目の右から二番目……−−


陽「お、あったあった」


売り切れていないことを確認し、ボタンを押そうと手を伸ばした時−−
聞き覚えのない男の声が、後ろから聞こえた。しかも、その声は俺に向けられたものだった。


「あれ、財前ちゃう?」
「お、ほんまや!財前くん、何しとるん?」
陽「……は?」


いかにも知り合い的な感じの声色に、俺は少し驚く。いや、確かに財前だけど"くん"っておま、俺を"くん"付けで呼ぶのは女子だけやぞ。しかも、全っ然聞き覚えのない声やし。
…とりあえず、無視する訳にもいかんので振り返ってみる。
………………自動販売機を見つめることにした。


「ちょ、無視することないやろ!」
陽「いや、あのほんま誰っすか俺にこんな傍から見ても変人そうな知り合いはいませんちょマジで勘弁してくださいつーか近寄らんといてください警察呼びますよマジで」
「まさかのノンブレス!?」


俺のまさかのノンブレスに驚き、つっこみを入れる知らない人。
いや、でも財前って俺のこと知ってるから知らなくない…?いやいやいや、でも俺は知らんぞこんな人達。


「…もしかして、財前くんちゃうんか?」
陽「え、いや、財前ですけど……」


…もしかして、この人達が間違えてんのって……。
俺がある人物を思い浮かべていると、噂をすればなんとやら−−二人の後ろから、俺とよく似た"財前"がひょこっと顔を出した。
そしてその"財前"は、呆れた表情で閉じられていた口を開いた。


「何やってるんすか」


財前は財前でも、違う財前です。