(沖矢昴=赤井秀一と知っています
赤井さんと仲良しだったFBI捜査官)







関心を寄せるようになったのは大学院生だという沖矢昴との親交のおかげだった。それまでのわたしはといえば、多忙なことを理由にし、大した食事を摂っていなかったと言わざるおえない。毎日の食事を考えることは、億劫でもあった。それはある男も似たような考えを持っていたと思っていたけれど、男は「料理は良い気分転換になる」と軽く言い放った。
呼び出され送られてきた住所へ向かうと、存在感のある家の前にわたしは立っていた。この家に入るのは初めてであったし、何よりあの有名な推理小説家の自宅だということを事前に聞いていたものだから、緊張は当たり前のように隠せなかった。ーー愛読書なのだ、ナイトバロンシリーズは。
のろのろと悩んでいると、扉は音を立ててゆっくりと開かれた。


「遅かったですね。チャイムを押してくださればよかったのに」


沖矢昴はその細目をさらに細くさせて笑った。
開けられてしまっては入らないわけにもいかず、不自然に辺りを見回しながら中へと入った。通されたのはリビング、そこには洋風な家には似つかわしくない鍋と、いかにも高そうな深いお皿が2つ、並べられていた。鍋の蓋を開けると、とろみのありそうな濃い色をしたカレーが入っている。
「わたしを呼び出した理由はこれ?」そう沖矢昴に問いかけると、小さな機械音がして、聴き馴染みのある声が聞こえた。


「ああ。少し野菜を煮込みすぎてしまったんでね…」
「あの博士だったら気にしないだろうに」
「いや、手厳しい子がいるんだ」


どこか嬉しそうに笑うその男は顔こそ沖矢昴だが、所作や声は赤井そのものだった。聞くところによると、この家に住み始めてから自炊を始めたらしい。考えてみれば赤井の作る料理を食べるだなんて、初めてだということに気がついた。2人で任務に就くことは少なくはなかったし、プライベートでも会う回数は多かったほうだとは思っていたが、こうして食事を摂る回数はそう多くなかったように思う。それだけお互い興味を持てなかったということらしい。
あっという間に盛り付けを済ませた赤井は、「座れよ」と促してきた。


「じゃあ…食べるけど」
「どうぞ」
「………おいしい」
「それはよかった」
「…沖矢昴がさ」


「料理は気分転換になるとか言うから、家でオムライス作っちゃったよ」おそらく中辛のルーを使っているであろうカレーライスを食べながら呟くと、笑いが入り混じった声で相槌が聞こえた。「しかもこの一か月、毎日自炊してる」と続けると、とうとう隠す事なく笑われてしまった。


「それはそれは」
「沖矢昴のおかげでただでさえ時間がないのに、料理に時間使うようになった」
「案外いいだろ?」


カレーライスを掬って口に含んだ。言い返す言葉も無く、黙って食べ続ける。


「来週は肉じゃがを作ろうと思うんだが、」
「赤井の口から肉じゃがって。初めて聞いた」
「来週も来ないか」


スプーンがお皿に当たる音がした。赤井の口から肉じゃがという言葉を聞いて、あまりの似合わなさに笑ってしまったが、そんなことは気にしない様子で赤井はそう続ける。沖矢昴で言われれば悩む事なく頷けるのだが、赤井となるとそれがどうも難しい。それが分かっているのか、分かっていないのか、また小さな機械音がして、食べ終わった皿を運ぼうと立ち上がったわたしの背中に落ち着いた声がかかった。


「是非来てくださいね。あなたと会えないのは、少々辛いものがある」


またスプーンがお皿に当たった。振り返って見てもそこにいるのは赤井ではなく沖矢昴だ。


「その言葉は、赤井秀一で言ってよね」


キッチンへ向かう。そんな言葉を沖矢昴で言うのは逃げもいいところだ。「…それは勘弁してくれ」後ろから聞こえた声を無視して、食後の紅茶を入れることにした。



20200516
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