また、出会うまでは。
左手の薬指についてた指輪は、今手のひらの上に鈍い光を反射させながらのっている。
お世辞にも綺麗とは言えなくなってしまった傷ついたそれを、壊れないように包み込む。
そこにある、記憶の中のアイツがやけに新明に焼き付いていて。
こんな結果にしたのは自分だろうと、自身を嘲笑った。
過ぎ去るアイツの背中。
それは毎晩見る夢。
夢の中の俺は、子供のように「いくな」と叫んでて。
けれど、どうだろうか。
現実の俺は、なんとあっさりと。
「じゃあな」と。涙を、堪えて。
幸せは、いつかは消える。
それを幼い頃から体験して来たから。
このとてつもなく幸せな現状が、壊れるのが怖くて…臆病になってしまって。
「大きな幸せは、嫌いだ」
と。素直に喜べずに、精一杯の愛情を贈ってくれてたアイツに、見合う愛情を贈ってやれなかった。
強がり、永遠に一緒にという未来を。
自ら手放して。取り戻すことは、出来ないのに。
一人には大きめの、ワンルームには違和感があるツインのベットに腰かける。
幾分さっぱりした部屋は、心の隙間を広げるように感じて。
この少しの一秒だけでも、傍にいれたらと。
今更過ぎる夢を見て。
俺には、本当は願う事すら許されないのに。
たったひとつ、ゴールドについた嘘。
初めてのその嘘は、あんな強情で我が儘で自己中なヤツの頬に、一筋の涙を描かせて。
俺は、数えきれない罪を背負ってきた。
純粋で素直なアイツに触れたらだめなくらい。
だけど、アイツは俺の手を握り、寄り添ってくれて。
俺も傍で、日だまりの横で生きようと。
それなのに。
「離れよう」
馬鹿だなと。
俺にとってはかげがえの無い大切な存在で、思い出でも。
アイツからしたら、横に居座った一人の男でしかないだろう。
いつか、消えてしまうであろう…むしろ嫌悪を覚えて消したくなるだろう記憶。
同性との、幼い恋愛。
今の新しい思い出を造り拾いあげるたびに、過去の黒い汚らわしい罪を捨てれたような気がしていたけど。
ゴールドからしたら、それは無かったことにはならないだろう。
それがあってこその、ライバルになったのだから。
友達でも、ライバルでも。
ましてや恋人でもなく全て最初からになった現在は。
始まりなのか。
または……、終わりなのか。
支えて、存在を認めて受け入れてくれる人が消えたこの状況は。
おそらく、後者なのかもしれないが。
一日を終えて、この広いベットで寝たところで、俺の一日は始まらない。
太陽が、でないから。
だから、無理矢理記憶のなかを辿って朝を迎えて。
傍で生きようと、決めた誓いを裏切った罪は。
俺が、生涯をかけて孤独という名の罰で償うから。
だからせめてもの報いは。
名前までとは言わない。
自分の、強敵であったライバルとして。なんとなくでいい。こんなやつと本気でバトルをしあって、少しの間の時間を共にしたんだと。
ぼんやりとでいいから、忘れないでほしい。
記憶に、居させてなんて図々しい願い。
神に届くようにと、強く証であった指輪を握りしめて。
また、いつか。
いつでもいいから。
今と同じ気持ちで、出会えたらいいなと。
自分勝手なメッセージを音にせずに伝えて。
そしたら、最初の頃のように。
照れてそっぽを向き合いながら。
強い力で、離れないように手を繋ごう。
その日まで。
「またな…」
誰にも言わず呟いて、横にある青色の箱の中へと目掛けて。
手のひらを傾けた。