友達対処外
嫌よ嫌よも好きのうち、とはよく言ったものだと思う。
確かに嫌いって気持ちには、一応は相手に感心があるわけで。
嫌いよりも酷いのは、そんな感情さえ抱かない、無関心。
だから嫌いという気持ちは、なんだかんだと言っても好きの裏返しなんだろう。
それは理解も出来るし納得もしてる、が。
それでもやっぱり俺は、
「ソウル!」
嫌いの方が納得がいく。
「こっちくんな」
「えっ、ちょ…」
目も合わせずにズカズカと離れていく。
困惑しながら立ち止まる姿が見えたが、だからって罪悪感が沸くことはない。
何故か?
…俺はヒビキが嫌いだからだ。
あの手のタイプは正直苦手で好ましくない。
多分俺と全く逆の性格だからだろう。
常に笑顔で明るいが、実は裏で何を考えているか分からず。
周りに気づかせないくらいに自身の思い通りに物事を進める腹黒さ。
「ホント、むかつく」
自分の嫌いなタイプにピッタリと当てはまっていて。
嫌悪感しかない。
「あっ、ソウルくん!」
「ゲッ…」
「殴るよ?」
年相応の愛らしい笑顔でとんでもない事を言い出すもんだから、思わず口を紡ぐ。
2つ結びが特徴の同級生のコトネは、俺が最も嫌うヒビキの幼なじみで。
だけど正直、恋愛なんて関係無しにコイツはそれなりに好きだ。
遠回しな物言いをせず、本音をしっかり言うし何より。
変に人の中に踏み込まない。
こちらが距離を置けば、多少なりと踏み込んでくる時はあるけど。
本当に来て欲しくないところまでは入り込んでこない。
だから、ちょうど良い。
「…なんだよ」
「またヒビキくんを無視したんだって?」
「なんでお前が知って…」
「着信があったから」
成る程、とは思わない。
だろうな、と思う。
理由なんて、嫌でも分かってるから。
「それで?」
「出来たら話してあげて欲しいなと」
「なんで俺が」
「……好きなんだよ、きっと」
どっちの、なんて今更すぎる。
それでも問えば分かってるでしょ、なんて言うもんだから。
わかってる。
充分すぎるくらい。
でも答えるつもりは毛頭無い。
「……いつかな」
そのいつかは、本当にいつなのか検討つかないけれど。
放課後になり下駄箱へ来て、思わず顔をしかめた。
あんな特徴的な爆発頭はこの学校に二人しかいない。
「なんでお前が居るんだ」
「あ、やっと来た」
無視かよ、なんて心で悪態をついて睨み付ける。
そんな様子にも嘘臭い笑みで居るもんだからため息をついた。
「どけよ、ジャマ」
「あ…ごめん」
「………」
「………」
無言で靴を履けば、無言でその様子を見つめてきて。
気味悪い。
「……なんだよ」
「いや、一緒に帰ろうかと思って」
「はぁ!?なんで俺がお前なんかと」
「だってゴールドがシルバーさんと遊ぶらしくて」
「だからって…」
「それで僕もお呼ばれしたから」
多分普段から眉間にはシワが寄ってんだろーけど。
そのシワがより一層深く刻まれたと思う。
兄さんが呼んだんじゃ無いだろうから、さてはゴールドか。
マジで良い迷惑だ。
つーか…
「だったら、兄さん達と帰れよ」
「二人の邪魔出来ないじゃん」
ああ言えばこう言いやがって。
だったら最初から遊びに行くなと思う。
「じゃあ一人で行け」
「でもソウルの家でもあるから方向一緒だし、ソウルだって一人でしょ?」
「俺はお前が居たら邪魔なんだよ」
「なんで?僕はソウルと帰りたかったんだけど」
呆れて知るか、なんて言葉さえ出ない。
キリが無いから無視して歩く。
その横を少し遅れて着いてきて。
よくもまぁこんな酷い仕打ちを受けながら諦めないもんだ。
「ねーソウル」
「………」
「ねーねー!ソウルってば!」
「あぁもうなんだようぜぇ!」
ほらな、一緒に帰って無視すればウザイのが分かってたから嫌だったのに。
なのに怒鳴りつけようともこっちを嬉しそうに見てるから寒気さえしそうになる。
「ソウルが僕を心底嫌ってるのは知ってるよ」
「………今更だな」
「そう、今更。だらか僕も今更挫けるつもりはないから」
「は?」
意味が分からず顔を見たら何時になく真剣な顔で
「だから、ソウルが僕を好きになってくれるまで諦めない」
何を言ってるんだと思う。
なんで真剣な顔でそんな馬鹿げた事を抜かすんだと。
………だけど。
こいつの事だ。絶対に諦めないだろう。
だからだ。変にやる気を出されたらうざったくて困るからで。
「……仕方ねぇな」
「えっ…」
「友達からなら、始めてやる」
よほど嬉しかったのか叫んでるのを無視して歩く。
微かに顔が熱いから、それだけアイツがうざいんだろう。ストレスで体調崩しちまったかな。
だから早く好きになれれば、と思う。
そうすれば、ヒビキをうざく感じてイライラする事は無くなるのだから。