100万回の
「お前は、俺で本当に良かったのか?」
己の横に居た人物が言葉を発する。自然と視線をそちらに向ければ、綺麗な緑色の瞳と視線が重なった。
「……何が?」
珍しく分かりにくい言い回しをする彼に純粋にその意味を解けば、一瞬だけど苦虫を噛み潰したような顔をする。
聞かない方が良かったかな、なんて少し申し訳なく感じていたら、彼の口から恋人という単語が出てきた。
「恋人って………」
「俺達の関係だ」
「あぁ…、え?」
話の趣旨が見えない。
頭が良い奴なら理解出来るのかも知れないが、生憎俺はそこまで頭が宜しくない。
わからない、と視線で伝えれば、微かなため息が聞こえた。
「このまま、俺はお前の恋人として居ても良いのか」
「えっ…」
間抜けな自分の声が耳に届く。
いつになく真剣な顔をしたグリーンが目の前に居る訳で。ふと、良からぬ考えが頭をよぎる。
……嘘、だろ?
「まっ…待って待って」
「な、なんだ急に」
「それはこっちの台詞!もしかして俺の事…」
嫌いになった?
覚悟も出来ないまま聞けば、眉間にシワが刻まれる。
何か言いたそうな、けれど言葉が出てこないという感じ。なにこれビンゴ?
「な、なんで、どこが!?あ、もしかしてこの前の!!?俺がなんか止まらなくなっ…」
「黙れ」
「ぐおっ……」
グリーンの綺麗な手が見事に俺の鳩尾へクリーンヒットされる。
当たり前だけど、凄く痛い。
「な、なにも殴らなくてもっ……」
「お前が勝手に勘違いして、うるさいからだ」
「か、勘違い…?」
綺麗に鳩尾に入ったせいで喋るのが辛いが、それよりも。
今勘違いって聞こえた気がする。
「俺の勘違いだったの?グリーンが嫌いになったんじゃなくて…?」
「馬鹿か、だったら最初から普通に別れを持ちかけるに決まってんだろ」
「そう…」
ならただ俺は殴られただけで、殴られ損じゃないか。いや、別れ話にならなかったから良いのかな。
それよりも、なんであんな……
「何かあったの……?」
「…………」
無言のまま、瞼を閉じる動作が綺麗だと思った反面、あぁ、これは肯定だな。って直感で感じて。
改めてグリーンの横に座る。鳩尾もそれ程痛くなくなったし。
「何かあるなら、言ってよ。ちゃんと聞くから」
焦らせないよう、ゆっくりと、しっかりした声で語りかける。
少し、瞳が揺れ動いた後、真っ直ぐにその瞳は俺を見つめてきた。
「俺は、」
「うん」
「レッドと同じ男で、…ライバルで」
「そうだね」
「っ……」
凄く言い難そうにしながら、口が開いては閉じてを繰り返していて。
大丈夫って、グリーンの手を握れば、微かな声で続きを漏らした。
「お前は、男女関係なく好かれてて、明るくて楽しくて優しくて。バトルも強くて、頼りがいがあって」
「………」
「でも俺は、特別レッドみたいな良い所もないし、バトルだってお前に勝てない。モテはするが、それは表面的な物だし、おじいちゃんの孫だから有名なだけで。…俺自身が有名な訳でも、褒められてる訳でもない」
「グリーン…そんなこと、」
「だから!だから…、尚更。俺はお前に釣り合わない。なにより男同士で、女じゃない。このまま、お前と将来を共にして、その先が見えない。どうしたら良いかわからないんだ」
いつになく弱気で吐くグリーンの眉は、いつもと違い下げられていて。瞳には、不安の色が見えた。
まさか、そんな事思ってたなんて気づかなかった。
大分辛い思いを一人でさせてたなんて、恋人として失格だ。
「ごめん、グリーン」
「は…?」
「俺、気づいてあげれなくって」
「なんでレッドが謝るんだ」
「だって俺がグリーンを大好きだって思ってるの、伝わらなかったから…」
「違う!!!」
急に張り上げられた声に肩が上がる。
ビックリしてグリーンを見れば、どうやら本人も驚いたらしい。いつもの綺麗な切れ長の瞳が見開かれていた。
「グリーン…?」
「っ、あ…いや。……笑うなよ」
「笑わないよ。どうしたの?」
何か、理由を説明してくれるのかな。なんて思いながらグリーンを見れば、徐々に赤くなっていく頬と耳。
先程とは違う意味で、すごく言い難そうにしながら、少しふて腐れたように言葉を。
「レッドからは、好かれている自信がある」
「例えば?」
「…キス、されたら、愛されてると思うし…。好きと言われたら、嬉しい」
「っ…グ、リーン…!!」
あぁ、俺の馬鹿。こんな軽い気持ちでいていい話じゃないのに、だけど。
でも、だとすれば。
「何がそんなに不安だったの」
「……いろいろあるが、特に男同士だから、本当にこれから先も一緒に居て良いのか、お前は俺を嫌いにならないかって」
……グリーンって、意外と馬鹿らしい。
世間体なんて知ったこっちゃないけど、俺がグリーンを嫌いになるなんて有り得ない。
「そんなこと心配してたの?」
「お前…っ、そんなことって……!!」
余り照れないグリーンが、珍しく顔を真っ赤にして焦る姿が愛しすぎる。
好きと言われたら嬉しくて、キスされたら愛されてると実感するって、本っ当に可愛い。
やっぱり、俺が嫌いになる訳がない。無駄な心配だと思うんだけど。
でも、グリーンがウザがるくらい俺なりに、普段からめいいっぱいの愛を注いでたつもりなんだけどね。
けれどたったそれだけで、グリーンの不安を取り除けて、その上で喜んでくれるなら…
「じゃあさ、」
100万回愛を吐いて、100万回キスをしよう