幼なじみの恋人
「なぁ、これ覚えてるか?」
そうやって楽しそうに笑うグリーンの手元にあるのは古いアルバム。
グリーンの部屋で昔話をしてたら、グリーンが持ってきた物だ。
「……どれ?」
「だからこれ」
グリーンが指差した場所には泥だらけで擦り傷が沢山出来ている僕ら。僕は帽子を握って泣いていて、グリーンは僕の手を掴みながら今にも泣き出しそうな顔をしている。
「二人とも泣いてる…」
「あれだよ、姉ちゃんに公園に連れていってもらったときの。探検のつもりで林の中入ったら迷ってさ、そしたら急にレッドがこけて。慌て駆け寄ろうとしたら俺までこけて、お前と頭ぶつけて」
「あー…それでやっと泣きながらナナ姉探して見つけたんだっけ」
「そうそう、男の子なら泣くなっていわれたよな」
「……でも写真とってたんだね」
「あー…まぁそこはノーコメントで」
なんていって二人で笑い合う。
次のページをめくれば砂山の周りで笑ってるグリーンと悔しがってる僕がいて。
確かこれはどっちのがデカイ砂山作れるかで勝負したんだったっけ。
「あ、これかー、最初はお前のがデカかったんだけど、最後にしくって全部崩しちまったんだよな」
「あれは、仕方ないよ。不可効力てやつ。」
「フン、戯れ事を」
偉そうに笑うグリーンが幼くて可愛いと思う反面、むかつくとも思うのは事実で。
「そんなに言うならグリーン」
「ん?」
「僕とシロガネ山でかまくら作りしようよ」
「は…?」
「勿論、競争ね。負けたら罰ゲームでもつけようか。そうだね、一日相手を好きにしていい…にしよう」
「いやいやいや、ちょっと待て!!」
「なに」
「何じゃなくて!!可笑しいだろそれ!!俺が明らか不利じゃねーか!!シロガネなんて立つだけでも必死なんだけど!!」
「だから?」
「だからっておま…大体、お前自分が勝つのわかってての罰ゲームだろ、それ。そんな勝負にはのりません」
「グリーンのケチ」
なんとでも言え、なんて言いながらページをめくるグリーンの頬と耳が林檎見たいに赤いのに気づいてしまって、思わず口元が緩む。そんな風に反応してくれるのは相手が僕だから、なんて。
でもそれが自惚れじゃないもんだから尚更。
これがジムトレやゴールドだったら、一瞬照れてもふざけるなとか軽くあしらうぐらいだから。
まぁ、勿論ジムトレには僕が文句を言っといたし、ゴールドは僕が何か言う前にシルバーに殴られてたけど。
なんでもシルバーにヤキモチ焼かせる為だったらしいのだけど、シルバーはそんなそぶり見せずにグリーンに謝罪してて、ゴールドは拗ねてたっけ。
まぁでも、シルバーはやっぱりゴールドが思ってるよりゴールドを好きだろうな、なんて。
この僕が色恋の事であれこれ思うなんて変だけれど。
それも、この目の前の幼なじみで親友でライバルかつ恋人のグリーンのおかげで。
だからか、とても怖くなる時がある。
グリーンはモテる。しかもカントー最強、トキワシティのジムリーダー。
もしかしたらいい人がグリーンにアプローチして、いつか僕がフラれるんじゃないかと不安になる。
自分で言うのもなんだけど結構口下手な方だから、思うように伝えれないときがあって。
自身の思いを余すことなく伝えてるつもりだけれど、それでも好きや、愛してるなんて言葉だけじゃなく、もっと格好良く思いを伝えたい。
それに相手は女の子だけじゃない。男の可能性も否定しきれない。僕よりイケメンで逞しくて、話が面白くて頼りがいがあるやつなんて沢山いるだろう。人の気持ちに敏感な人もいるだろうし。
不安にかられて落ち込みかけてきた。ホントに情けない、こんな自分が嫌になる。
「おい、レッド」
「どうしたの」
「お前変な事考えてんだろ」
「え、なん………」
「今一瞬瞳が揺らいでた」
「っ……」
あぁもう君って本当に………。
いつこちらを見たかはわからないけれど、そんな一瞬の事を見逃さずにいてくれた事が凄く嬉しくて。
そんな事でも嬉しいのに。
「今何考えてるかなんて、詳しくはわからない。けどな、これは俺の憶測してからの考えなんだけど。…俺は、お前が俺の一番の理解者で、性格や気持ち、嬉しいこと悲しいことの基準、そんなのを一番分かってくれてると思ってる。その逆もしかりだ。お前を一番分かってるのは俺だと思ってるし、そうじゃないと嫌とも思う。だからもし、俺に言い寄るやつがどんなにアプローチしようとも、俺は振り向くつもりはない。というか振り向かない。逆にお前に嫌いと言われたら、そこを改善するし、好かれる様に努力する。大袈裟だけど、お前に嫌われるぐらいなら周りから嫌わわれる方が全然良い。だからお前は何も不安に思う事はないんだぜ?……まぁ、お前が悩んでる事と違かったら忘れろ」
ふいっ、と横を向いたグリーンの言葉に泣きそうになる。意地っ張りで負けず嫌いで恥ずかしがり屋なグリーンが僕の為にとそこまで言ってくれた事が嬉しくて。
思わずグリーンを抱きしめずにはいられなかった。
ありがとうと、思ったことは何百回もあるけれど。感謝をしてもしきれなくて。
抱き着いてるグリーンが照れ隠しか離せと言ってくるけど逃げようとはしないから。そんなとこも愛しくて。ごめん、やっぱり君に好きな人が出来ても離してあげれる自信がない。あそこまで思われてるなんて分かれば尚更。
グリーンの体をさらに強く抱きしめて、「ありがとう」と。
君が僕の恋人でよかった。