ゴールドスプレーの使い方
「っ………ヒビキィィイ!!!」
「シルバーさん!!?」
ヒビキの部屋へ飛び込んだのは、30分前。
理由はゴールドから己の身体を守るためだ。
「で…変態のゴールドから体を守る方法、と。」
「そうだ。何か方法は無いだろうか」
「でも……男なんて皆変態じゃないですか?」
「俺には理解出来ない」
「あー…まぁそういう性欲が少ない人もいますよね…」
「あぁ」
「んーそうだなぁ……」
そう言って頭を抱え悩みだすヒビキ。
本当に二人とも爆発した前髪にも関わらず、ヒビキの方がしっかりしている。
ゴールドの性格を考えれば考える程、産まれてくる順番が違かったのでは、と心配になってきた。
けれどヒビキがしっかりしてるから、ソウルを任せられる。
……それといい、ゴールドはどうだ。初めて会った時点で50回は話しかけられた。仮にもライバルとして情けない。なんでライバルと認めてしまったのだろう。だいぶ、俺の頭も残念だ。
「あ…」
「ん?何か良い案でも浮かんだか」
さすが弟。しっかりしているヒビキなら良い案を言ってくれるだろうと期待をしていた。
……次の言葉を聞くまでは。
「ゴールドスプレー使いましょう」
「……は?」
間抜けな声が出たのは致し方ないだろう。
「だから、ゴールドスプレー」
「いや……あの……」
「ほら、名前ゴールドだし」
「そういう問題じゃなくてだな、あれはポケモン用であって……」
「顔面に使えば使用できますよ」
真顔で言わないで欲しい。
その瞳は真剣そのもので、笑い飛ばす事も出来ない。
「…お前はゴールドに恨みでもあるのか」
「恨みとか無いですよ」
「………嫌いか?」
「まさか。むしろ好きです」
だったらなんでそんな酷い扱いできるんだ。
ソウルなら絶対そんな事言わない。兄の顔面にスプレーだなんてそんな。
しかし冗談で無いのに恨みも無いのなら、なぜ。
「なら、なんでだ」
「なんで、って……」
こちらを向いて、愛らしい爽やかな笑顔で。
「ソウルのお兄さんだから」
……この時ばかり、ソウルの兄で良かったと思った事はない。
良かった、ソウルが俺を嫌ってたらと思うと冷や汗しかでなかった。
ヒビキから言われた通りに、ゴールドスプレーを50個買って持ち運ぶ。
重い。今にもリュックからスプレーが転げ落ちそうだ。
ここまでされる…というか用心されてるゴールドは……。
いや、と言うかあっさりとヒビキに裏切られたゴールドが気の毒でしかたない。
確かに話を持ちかけたのは俺だが、これは酷い。
そして影で尾行してるヒビキとソウルも最低だ……。
「おーい、シルバーちゃーん!!」
来た。とりあえず一つだけ隠し持つ。バレない用に、とヒビキに言われたが後ろのリュックを見れば馬鹿でも何かを持ってるのはわかるだろう。だってリュックのせいで手が後ろへ回らないのだから。
「シルバー…そのリュックの中なんだよ」
「あれだ…あの、スプレー」
「は?だったらなんで何か隠してんだよ」
「隠してない。そのだな、運動だよ。運動。腕を微妙に後ろへやって、腕力を鍛えてるんだ。何か持ってるわけじゃない、本当に」
「………………。」
ああああ、俺の馬鹿。
そんな変な運動あるわけないだろ。だいたい、何か持ってるわけじゃないとか持ってると言ってるものだろう。というかスプレーとか言ってしまった、駄目だばれた。
「………んだと」
「っ………」
「マジかよ、中に何が入ってるかはわからねぇけどトレーニングだったんだな」
ああ、そうだコイツ馬鹿なんだった。
こんな変なトレーニングあるわけないのに。というか中には何が入ってるかわからないってさっきスプレーといったんだが聞こえなかったのか、残念な耳してるな。今すぐ病院行ってこい。
……なんて話ではなく。
「ところでシルバー、ホテル行こうぜ」
「ふざけんな!!顔が近い!!ああああケツさわるな!!」
「大丈夫、怖くねぇ!!ちゃんと美味しいモノも食わせてやるから!!下の口で!!」
「キモいキモいはなせぇぇええ!!死ね、セクハラクソ野郎!!捕まれ!!」
「なんだよ、あれか!!警官ごっこか!!シルバーが取り調べで俺に色々、そりゃあもうこんな真っ昼間から言えないような事してくれるつーんだな!!大丈夫、俺手錠持ってるから!!俺を捕まえてくれ!!」
「ちがう、なんでそうなった!!お前耳鼻科に行け!!もう頭は遅いだろうからせめて耳直せ爆発頭!!」
「んだと、SMプレイも追加か!!?しゃーねぇ、俺が仕方なくMになってやるから、早く手錠かけろよ!!そして鞭で叩いてホテルまでつれてけ!!」
「だからなんで手錠なんか持ってるんだ!!てか鞭だすな!!マジでだれか!!」
駄目だゴールドの発作が起きた。
なんなんだキモい、キモいというか怖い。お前の耳はどうなってるんだ。
助けを呼ぶつもりで向いた先にはヒビキ。何かを書いたノートを見せてくる。
……そうか、そうだった。
「ゴールド」
「ん?」
「くらえ!!」
「何っ……ぶわぁったぁ!!?」
意味不明な叫び声をあげ倒れる。それもそうだ。
何せ顔面、しかもヒビキの持ってるノートに書いてあった通り目の近くでしてやったのだから。
失明したら悪いが、俺の後ろの初めての方が大切だ。
全く持って残念なライバルを持ってしまった。
ヒビキをみれば、ナイスとガッツポーズ。本当にこの目の前にのたうちまわってる奴の弟なのか。
実行は可哀相なのでしなかったが、"大事なモノを潰せ"とも書いてあった。
そんなことしてライバルがオカマになるのも嫌だからしなかったが。
後ろでソウルが呼んでる。そうか、逃げないと。
とりあえずゴールドを放置してヒビキの元まで戻った。
「なんで潰さなかったんですか」
「本当に弟か、お前……」
それからは、ゴールドスプレーを持ってればゴールドが俺の半径25m以内に入ってくる事はなかった。