これからを共に







「やっと、追いついた」
そう言いながら目の前にいるNの腕を掴む。
すると、戸惑うように目を逸らされた。それから腕に力を入れて逃げようとする。
「逃がさない」
「っ……!!」
そう言って、壁にNの背をぶつける。壁と言っても、町から少し遠く、どちらかと言えば森に近い建物だから、周りから変な目では見られない。、何気なくNを見れば困惑した、泣きそうな瞳で見られてNの肩を抑える手を退けた。
しばらくの間沈黙がかかり、少し気まずくなる。
本当は、もっと抱きしめたりしての再開予定なんだったんだけど。
「君、よく僕を見つけれたね」
「まぁ、周りに話聞いたりとかして、いろんな場所にいったりしてたしな」
「そっか、久しぶり…トウヤ」
そこで一旦会話が止まる。
物凄く気まずい。今まで旅の中で会っていた空気と明らかに違う。
多分憶測だけど、Nは自分自身の考えが違った事とか、今まで偉そうに言っていた分気まずいのではと。それとNの過去だろうか。部屋を見てしまって、驚いた。子供のおもちゃなんかが沢山で、その中に閉じ込められて。だからその狭い部屋の空間でこれまで過ごし、世間を知らなかったんだろう。
この頃はもう、Nを男として好きで。ゲーチスをぶん殴って殺してやりたくもなった。でも、そんなことしたってNは喜ばない。ならばせめて、この痛んだ空間からNを救ってやりたい、そう思った。
けれどそれは……最終的にNを苦しめる事になってしまった。
自分の考えが違うとなれば、目標を失う。失えば考えれば良いのだけれど、ゲーチスに教わった事しか分からないNにとってはそれはとてつもなく難しい事で。目標なんて数式で作れる物でもないし。
そうやって目標を失えば、無気力になる。普通の人と関わる事を知らないから、支えてくれる存在もいない。ポケモンがいたとしても、やはり人は人、ポケモンはポケモンで意識疎通をはかったって限界があるのだ。
そんなNのただ一つの居場所を壊したのは、俺で……。
駄目だ、気持ちが沈んできた。


「はぁぁぁぁあ」
「ト、トウヤ……?」
「たく、今までみたいに喋れよ!!この空気のせいで、気持ちが沈んできただろ!!」
「え、ごめん。…いや、今のは別に僕は悪くないんじゃ」
「いや、Nが悪い。全てNのせいだ」
「トウヤ、それ…理不尽じゃないかい?」
さっきとは違う、作り笑いではない笑顔で笑うNを見て、愛しくなる。やっぱり、俺はこっちの方が性にあってる。
もう一度、ふたりで久しぶりと声をかけあう。しばらくすると、Nの方が先に言葉を繋いだ。
「トウヤ、心配かけたみたいでごめん」
「心配?」
「僕の部屋見ただろう?あのことだよ」
「………。」
「僕はね、夢があったんだ。人とポケモンが幸せに、もあるけれど…。普通の子のようになりたかった。愛して愛されて、夢をもって、支えて支えられ。物凄く望んだよ。廊下を歩いたりすり時に窓から見える町並みが羨ましかった。憧れだったんだ。」
「N、お前……」
「でもねトウヤ、僕は怖かったんだ。流れていく時の中でそれは変わらなかった。何が正しいかわからなかったよ。ゲーチスの考えは違うんじゃないかとも気づいてたけれど、でも怖くて、結局は自分の考えを消した。不安だった。だから君を見て引っ掛かったんだ、幼少時代の僕の考えた理想に果てしなく近かったから。」
「だから突っ掛かってきたのか」
「うん、それで、君に負けるたびに色々考える様になった。だから最後の戦いで負けた時、自らの考えを探そうと決めた。夢、希望、喜び、悲しみ、不安、孤独……他にも人として必要な感情を認めて、立派になろうと。無くしたモノを探しにね。それにそうすれば、僕が望んだ大切な存在が見つけられるかも知れないからね。これ以上は君に迷惑かけられないから」
「俺は、迷惑なんて」
「気を使わなくていいよ。生きる意味を探して、目標をみつけれれば……僕の、僕自身のストーリーが完成するだろう?」
笑顔でそう言うNに、複雑な気持ちになる。
それだけ、成長したんだろうけれど、まるで自分が、いなくても大丈夫と言われているようで。別に、壊したのが俺だから、俺が償いたいなんて訳じゃない。
好きだからこそ、迷惑なんて言ってほしくない。俺はNがいなければ、生きていけない。依存でもいい、事実、俺は世界に置いてかれて…時が止まった気もした。情けないけれど、涙した日もある。だけど、そんな弱い自分を気にもせず明日は必ずくる。そして、Nも何処かに存在するはず。だから弱さに負けず、生きていけた。だから……

「なぁN、伝えたい事があるんだ」
「なんだい?」
「俺は、別にNを迷惑とは思わないし、出来るなら頼って欲しい。寂しいなら傍にいたいし、常に隣にいたい。次の日を二人で過ごして、思い出もつくりたい。それに、生きる意味を二人で見出だしたいし、同じときに泣いて笑って、歳を取りたい。奇跡や運命、そんなロマンチックなものなんか要らない。ただ、今を共に過ごしたい。」
「…トウヤ?」
「好きだよ、N。愛してる」
恥ずかしい事をいったのもわかる、けれど……。輝くような人生じゃなくても良い。波瀾万丈な日々が待っていようとNがいるならば。
それが、俺の正直な気持ちだから。
「俺はさ、自己中だけし我が儘だ。自分の為ならなんでもする。だから言うけれど…絶対に一生愛してるなんて言わない。確かに今はNが一番だけれど、Nよりいい人が現れて、その人の方が好きになるとその人の方に行く。傍にいるのが当たり前とも言わない。当たり前なんてことは存在しないし、一生惹かれる保障だってない。後から見えてくる部分があるだろし、そのせいで嫌いにもなる可能性は捨て切れない。でもさ、これだけは言い切れるんだよ。Nよりも好きになれるやつは探しても居ないって。じゃないとこんなにも探し回ったりしないし」
「トウヤ…。」
「矛盾してても良い。今、傍に居て、同じ時を過ごしたいのはNなんだ」
「っ……」
「これが俺のマジ本音。Nは?」
実を言えば聞くのは怖い。けれど、聞かなきゃいけない気がするんだ。
まっすぐな眼差しでNを見る。返事は……


こくっ、とNの頭が縦に動く。これはつまり、……肯定。
嬉しくて、思わずNを抱きしめた。身長差なんか関係無しに、それはもう、思いっきり。苦しいと聞こえたけれど、離してなんかやらない。目頭に涙が溜まるのがわかる。
頭上から微かに笑い声が聞こえて来て、弱々しい力で抱きしめ返してくれる。
「ありがとう」
そう吐くNから涙が落ちる。Nを見れば、泣いていて。でも、その笑顔は嬉しそうで。
だから思わず、Nにキスをした。触れるだけの簡単な。驚いたNに笑いながら涙を拾ってやる。
「なぁ、N。俺、こんな性格だけどさ…お前の事は、マジで幸せにする」
「うん」
「そのかわり、嫌がったって、うざいくらい愛を注いでやるよ」
「ふふ、そうだね。今までの人生の分…君に大切にしてもらうよ」
「あぁ、任せろ」

そのあとに微かに吹いた風が、揺れる花草や動物の泣き声が、太陽の暖かな光が、俺らを祝福してくれているように思えた。











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