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≫ ヒビライ


「だから、嫌だっつてんだろ!」
「いっ…!」


ゴッ、という鈍い音が頭の中に響き出す。
ぐらりと揺れる視界から、頭を思いっきり殴られたのだと理解した。


「ねぇー…」
「しつけぇよ!!」
「なんで急にダメなんだよ!」

本当に、なんでいきなり。
いつもはキスしようと言えば頷くし、嫌がっても結局はさせてくれる。
それでもダメな時は脅せば大人しくなるのに。

今日だけは、何故か頑なに拒まれてさせてくれない。
一体どうしたんだろう。

数週間前からソウルに関係する事柄を思い出しては考えるけど、何一つとして思い当たる事がない。
だって無理矢理した事なんて、ゴールドじゃないから無いし。

確かに脅すけど本当に嫌ならソウルはハッキリそれを表すし、その時は諦める。
でも今日はいつもと違って避けて……避けて?

「ソ、ソウル…」
「……なんだよ」
「もしかしてソウル…」
「………」
「僕の事嫌いになったの?」

「…はぁ!?」

そうだ、じゃなきゃおかしい。
嫌だとしても顔を反らす理由が分からなかったけど、コレなら納得できる。
思い返してみれば今日は、顔を全く見てないと思う。


なぜか顔を背けて、うつ向き気味に口をつぐんでたし。
あぁ気づかなかったら良かったのに。

いつ嫌われちゃったんだろう。
どんより落ち込んだ姿が目に入ったのか、ソウルが心配してきた。

「ヒビキ、」
「…何?」
「大丈夫か?」
「……な訳無いよ」

好きな人に嫌われて、笑顔で大丈夫なんて言える人はそうそういないと思う。

「…つか、勘違い」
「え…っ?」
「お前の事、嫌いじゃねーよ。」
「ほんとに?」
「嫌だったら帰るし、別れるに決まってんだろ」

悪態をつきながらも、さりげなく心救われる。
……けどなんでそんなに口元隠すんだろう。

「でもキスはいやなんでしょ?」
「…嫌ではない」
「でもめっちゃ隠してるじゃん」

ね、なんで?
嫌われてない事を知って落ち着いたから、いつもみたいに満円の笑みで聞く。

その作り笑顔が怖いらしいソウルは「うっ…」と声を漏らして、諦めたように手を下げた。

「………くち」
「口?」
「……乾燥してんだよ」

渋々といった感じで白状した内容は、当初の心配とはほど遠くて。
それよりも。

「まさか…それで、嫌がってたの?」
「…悪いか」
「なにそれ」

呆れるを通り越して。
なんて可愛いんだろうと。

「コトネに言われたんだよ、唇は乾燥してたら嫌われるって」

だから嫌だったとあまり変わらない位置にある赤色の瞳がこちらを見やる。
なんでソウルってこんなに可愛いんだろう。

「そんなの関係ないよ」

そっと頬を撫でて、あえて鼻の頭にキスをした。

≫ レ←グリ



つかれた。


アイツが居なくなってから三年目になる。
じゃあね、その言葉を呟いて消えてからは、何処にいるかもわからない、…消息不明の状態で。

本来ならばアイツがなるはずのトキワのジムリーダーは俺になり、ジムリーダーとして町を守り、挑戦者を待ち続けた。
…いつかアイツ帰ってくると信じて。

だけど一年たった後も連絡もなかった。
痺れを切らして、俺は。自らが探す事にした。これが二年目。
勿論、ジムはサボってばかりでジムトレ達には怒られたし、何故か一番懐いてくれてるヤスタカは毎回俺が居なくなるとついて来て。

けれど、三年目。
……色々と限界になったのだ。
毎日変わらない日々、皆の中から消えいくアイツの記憶。日々来る挑戦者、…思い出せなくなった、アイツの笑う顔。
つかれたのに、頑張らなきゃいけなくて。三年目にはもう、探す事すら半ば諦めてたんだ。

けれどそんなときにアイツに似た挑戦者であり後輩になる、ゴールドが。
うるさいくらいに扉を開けて叫んできた言葉が。

「グリーンさん、聞いてください!すげぇ強くて俺でも叶わねぇくらいの人間に出会ったんっスよ!シロガネ山に居る赤い帽子と服の、肩にピカチュウを乗せた…」

慌て早口でまくし立てるゴールドを無視して、ジムを出た。
ヤスタカが何か言ってたけど、それを聞く余裕もないくらいに。

……多分、アイツだと自信があるから。
三年目、待ってたアイツだと。

「ピジョット、シロガネ山まで!」

見つけたら、アイツだったら叩いて怒ってそれから…おかえり、と。
泣きながら言ってやろう。

俺の視界は、白い雪に包まれ消えた。



≫ レグリ






「なぁ、レッド…」




「どうしたの?」

いつもの調子で振り返るレッドはやっぱり、

「……お前、なんでそんな余裕たっぷりなんだよ!」
「え、ちょ、グリーン?」

ほら、やっぱし。
少し目を見開いたけど、やっぱり余裕ありまくりな表情で。

「んだよ、気取ってんのか!」
「それは酷いよグリーン」
「知らねぇ!お前あんまり表情変わんないし、悪いのはお前だレッド」
「理不尽だね…」

そういわれてもなぁ、なんて考えこんでるレッドはやっぱり余裕たっぷりだ。
実際、この14年間でレッドが焦ってる姿なんて殆どない。
いつも俺ばかりアタフタしてんだ、ムカつくのも仕方ない。

「…ねぇ、グリーン」
「なんだよ」
「単純に性格のせいもあるんだろうから、そう見えるだけかもしれないけど」
「…けど?」
「僕、別にいつも余裕って訳じゃ無いよ」

さらっ、と放たれた言葉に耳を疑う。嘘、って言いたいけど…四六時中いっも一緒、なんて訳じゃないから、有り得なくも無い。
だからって……

「…じゃあ」
「なに?」
「俺関連で焦った事ある?」
「……無い、かも」

あぁ、もう嘘だろ、俺いつも焦ってんのに!
少しふて腐れながら睨みつければ、嘘だよなんて笑いながら言ってきて。

畜生、カッコイイ。
でも許さねぇ。だってまた余裕な顔しやがったから。
絶対にその顔を一度だけでも崩してやる。
そう思った時に浮かんだ、行動が。

「レッド」
「どうし、たっ…!?」

振り返った瞬間に胸倉をつかんで、そのまま引き寄せる。
目の前には、俺の大好きなレッドの驚く顔。目をつぶれば、微かなリップ音が響いた。

みるみるとレッドの顔が赤くなって、内心ガッツポーズ。
どうだ、俺だってやれば出来るんだぜ、馬鹿レッド。
…まぁ、俺も顔が真っ赤だろうから、そこまで誇れる事じゃないけど。


「ざまぁみろ!お前の余裕壊してやったぜ!!」



ビシッと、レッドに指を向けて偉そうにする。
あいもかわらず、今だにレッドからの反応は無い。





…しばらくの沈黙が続く






笑い声が響くまで、あと、三秒






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