イナズマ | ナノ

カトレア

90 さようなら




「まさかあんなに柔だったとは。……ねぇ、影山総帥」

 不動はうんざりとした表情でグラウンドを移す画面を見ながら、影山に同意を求める様に声を掛けた。しかし影山はそれを切り捨てる様に、使えないのはお前だ。と口を開く。その発言に不動が語調を荒げ、食って掛った。

「二流なのはそこの奴だけじゃない。……アンタもだよ、影山」

 突然掛けられた声に2人は振り向く。――そこには1人の少女が佇んでいた。柔らかな亜麻色の髪を高く2つに結び、2人が知る優しげな表情とは全く違う、鋭く射抜く様な瞳と冷たい笑みを浮かべていた。

「……遂に目覚めたのか」
「えぇ、お陰様でね」

 少女は腰に手をあてて、小さく笑う。影山と少女の会話に不動は訝しげに眉を寄せ、口を開いた。

「総帥、こいつは雷「今のアタシはスピカ。その名前じゃない。何でそうかはアンタに教える義理は無いから教えないけど」

 彼に対して興味が無いのか、少女――スピカは影山から視線を反らさず一気に言い放った。スピカのその態度に苛立ち不動が掴みかかろうとすれば、今度は影山が制止する。

「今の奴に怪我をさせれば“あの方”が黙っていないぞ、不動」

 残念でした。とスピカが嘲笑すれば不動は舌打ちし、何処かへ行ってしまった。影山はその姿を見ながら、目の前に居る彼女に顔を向けて、自身のサングラスを掛け直す仕草をする。

「……叔父様はもうアンタの事、見限ってるわよ」
「だろうな。“お前”が此処に来た時点で分かっていた」
「ふーん。じゃあ、話が早くて良いや。……どうするのこれから?」

 尋ねた割には興味が無さそうにスピカは自身の髪を弄っていた。

「ここを……爆破する」
「へー、それで一緒にさよならって訳。アンタって本当にやる事大胆ね」

 あははっ、とスピカは声に出して笑うと部屋の出口へと歩いて行く。そして振り向き、もう一度笑った。

「……最後に言っておきたかったから言うけど、アンタがもう少し“飛鳥”の大事な子達を大切にしていたら、アタシが目覚める事なんて無かったんだからね」

 スピカの笑顔には少しだけ悲しそうな、呆れた様な表情が浮かんでいた。影山は何も言わず彼女を見つめる。その様子にスピカは小さく溜息をつき、口を開いた。

「さようなら、影山“総帥”」


―――
この2人の絡み結構好きだ。

2009/11/29


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