イナズマ | ナノ

カトレア

89 芽吹き




「遅せぇよ、……エターナル・ブリザード!!」

 後半が開始され出された染岡と吹雪君による新たな連携技、ワイバーン・ブリザードが見事ゴールを奪う。その素早いシュートに源田君は反応できず、技を出す事なかった。(……良かった)その1点に皆の表情に希望の光が見えた様な気がする。
 ……しかしそれに危険視をしたのか相手キャプテンである不動が染岡にスライディングを装ったキッキングを行い、その危険な行為にイエローカードを出された。
 倒れこむ染岡に吹雪君は憤慨し、不動に殴りかかろうと拳を振り上げる。

「……吹雪君、駄目だよ」

 走り寄ったアタシは吹雪君の拳を掌で受け止めた。その行為に彼は驚いたのか目を見開き、動きを止める。

「殴ればアイツじゃ無く、君が退場になる」
「……ちっ、」

 そう言って吹雪君を見つめれば悔しそうに顔を歪め、染岡に声を掛けるとマネジの元へと走って行った。その後ろ姿を見ながら今度は不動の方へと視線を向ける。

「……アンタ、度が過ぎるんじゃない?」

 吐き出された言葉は自分でも驚くほど冷たい語調に、不動が小さく息を飲んだ気がした。……彼の表情を見た時、不意にピシリ、と心の奥で何かが罅割れる様な……そう、壊れる様な、そんな音がした。


***


 あれから試合は膠着状態が続いた。試合に出る事は出来ないと言われた染岡は本人の意思(とメンバー不足)で試合に出続け、残り時間が僅かになる。

「佐久間ぁ!!」

 小暮からボールを奪い、不動が佐久間君へボールを回す。メンバーの働きを虚しく、2度目の皇帝ペンギン1号が放たれた。佐久間君の絶叫がグラウンドに響き、……ボールは鬼道君と守の決死の守りでゴールは守りきられる。

「お願い、もう止めて……っ」

 鬼道君の説得を撥ね付けた佐久間君の肩を掴み、アタシは声を震わせた。佐久間君はアタシの手を握って苦しげに息を切らせながら、小さく笑った。

「お前に、見せてやるからっ……俺が強くなったって事を」

 だからそこで見てろ。と小さく囁かれ、押し返される。……倒れそうになった所を鬼道君に抱きとめられ、倒れる事は無かった。
 そのまま行ってしまった佐久間君の後ろ姿をアタシは唇を噛みしめ、瞼を閉じた。

「またアタシは、スピカは……大切な人を、友達を……誰も守る事が出来ないの……っ?」

「##NAME1##……?」

 鬼道君の声にアタシは意識を戻した。(鬼道君にお礼を言って)慌てて離れると、試合が再開される。……もう一度、ピシリと嫌な音が聞こえた。

「これで決める!!」

 再び佐久間君へボールが回され、3度目の皇帝ペンギン1号が出される。
 ……ボールを受け止めようとゴールに立ちふさがった鬼道君を守る様に、負傷した染岡がボールを蹴りとめた。ボールを止めた染岡は威力に耐えきれず吹き飛ばされ、グラウンドへ叩きつけられる。……そして3度目の皇帝ペンギン1号を放った佐久間君が倒れこんだ。タイミング良くホイッスルが鳴り、試合はそこで終了となった。

「いやっ、いや……っ、染岡、佐久間君っ」

 倒れこんだ彼らの姿が以前見た映像と重なり、フラッシュバックする。……大きな音を立ててアタシの中の何かが崩れて行く感覚がして、その途端、ガタガタを体を震えだした。アタシは地面へ座り込むと、割れる様に痛い頭を抱え、絶叫する。

「いやぁぁぁぁぁ!!」

 ――毒花の種が、芽吹かれた。


―――
これ書くの辛かったけど、見るのも辛かった……。

2009/11/29


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