イナズマ | ナノ

カトレア

22 雷門中vs野生中




 ――何かに一生懸命集中すれば時間はあっという間に過ぎる。
 まさしくそんな感じで特訓の日々が過ぎ去り、試合当日になってしまった。……イナズマ落としはまだ完成していない。
 ……前回の尾刈斗中の試合同様、アタシの記憶の中から試合内容が消えていた。やはりあちらで得た記憶の欠落が進みつつある。少し不安の残るアタシだったけど、学校に着いた途端それも吹っ飛んでしまった。

「何此処……ジャングル?」

 日本では無い様なこの自然の量。まるでアマゾンにでも来た様な感覚になる。呆けているアタシ達に突然、動物の声が聞こえてきた。
 声の先を見れば、そこには動物では無く人がいて、夏未ちゃんの車に興味深そうにまとわりついて居た。ちょ、スパイクでボンネットに乗ったらヘコむから!!

「これが車コケ!初めて見たコケ!!」
(く、車乗った事無いって……今までどうやってフットボールフロンティアの会場行ってたんだろ……?)
「な、なんなの……?」

 自分の車が弄られている事よりも不思議な生徒達に夏未ちゃんは驚いた様で、唖然としていた。すると突然、春奈ちゃんが声を上げる。

「あ、あの人達ですよ!野生中のサッカー部」
「こ、こんなのに負けられるかよ……、」

 茫然とするアタシ達にポツリ、と呟いた染岡の言葉がやけに印象に残った。


***


 ――雷門中と野生中の試合。前半も終わりハーフタイムとなったが、試合は中々厳しいものになった。(得点は両チーム共0対0の引き分け)
 ベンチで試合を見ていても、やはり野生中の身体能力は凄まじいものでファイア・トルネードを阻止するほどのジャンプ力と、凄まじい速さで雷門は苦戦していた。
 それに伴い、前半20分には染岡が足首を痛め土門君と交代、イナズマ落としも上手くいかず、絶望的な状況で前半が終わってしまったという所だろうか。

「やったな、皆!」
「何言ってんだよ、コテンパンじゃねえか!」

 円堂君の言葉に染岡が食って掛る。周囲も訳が分からない、といった表情で彼を見ていた。その視線に円堂君は明るく笑う。

「でも、同点だぜ?あんな凄い連中相手にだ!後半も俺は絶対ゴールをわらせない。そして、2人のイナズマ落としで点を取って勝つんだ!」

 円堂君がFWの2人に視線を向ければ、壁山は気まずそうに視線をそらした。その顔はとても落ち込んでいて、その表情にマズイなとアタシは小さく呟く。
 ……幾ら技量があっても、本人が自身を持ってやらなければそれは上手くいかない。その逆も然り。
 努力すればそれは自分自身に必ず帰ってくる。出来た時のあの喜び。それも、スポーツの楽しさでは無いだろうか。とアタシは思う。
 諦めたら、それで全ては終わりなんだ。

「俺を……ディフェンスに戻してください」
「壁山!」
「駄目なら交代させてください。俺には“イナズマ落とし”は出来ないっす。……これ以上ボールを上げて貰ったって……、」
「いいや、ディフェンスには戻さないし、交代もさせない。俺はお前と豪炎寺にボールを出し続ける。……高いのが怖いって言いながらあんなに努力してたじゃないか!精一杯やった努力は無駄にはならないよ!」

 そう答えた円堂君の言葉はとても力強かった。アタシはベンチから立ち上がると、壁山の頭を撫でる。

「雷鳥先輩……、」
「円堂君の言う通りだよ。サッカー好きだからあんなに練習したのに、実を結ばない筈無いじゃない!」

 アタシもサポートするからさ、と笑いかければ皆も賛同してくれた。その声に壁山の目が少し潤む。

「だから何度でも俺はお前達の所にボールを上げ続ける。良いな?」
「でも、俺には……」

 壁山の小さな声は後半開始のホイッスルに掻き消されてしまった。


2009/10/09


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