イナズマ | ナノ

カトレア

05 新しい友達。




 ――あれから数カ月が経った。その間にアタシは無事退院をして、少し遅くなってしまったけど漸く雷門中へ(中学2年生として)編入手続きが完了する。……それともう1つ、この数ヶ月間で変わった事がある。

「……飛鳥」
「あー待ってよ、豪炎寺君」

 そう。彼、豪炎寺 修也君と友達になったのだ。1番の理由は夕香ちゃんとの一連で知り合った事と、(入院してたのが原因で)豪炎寺君と入学する日が重なったことだろうか。
 中学生にしては随分と無口な彼だけど、一緒に居ると中々楽しい。(本当にイナズマイレブンのキャラ達は大人びた子達が多いと思う。あっち世界には中々居なかったよ……)
 今は夕香ちゃんのお見舞いに行った帰りで、折角だからと雷門中の通学路である河川敷を歩いている所だ。此方方の通学路はアタシ達の通る道では無いけど、河川敷から見える景色は綺麗で散歩には申し分なさそうだ。

(あ、あれって……円堂君?)

 河川敷の下に作られているグラウンドから聞えて来た賑やかな声。その声に視線を向ければ、楽しそうにサッカーをする小学生達と、――イナズマイレブンの主人公である“円堂 守”がいた。
 足を止めるアタシに数歩先を歩いていた豪炎寺君は気が付くと彼もサッカー場へと視線を向ける。

(良いなー。円堂君、凄く楽しそう)

 気が付けばそんな事を考えていた。……この世界に来てからサッカーを始めたけアタシだけど、(此方のアタシの影響か)今ではすっかり好きになって、暇な時にはサッカーの事を考えている自分に思わず笑ってしまいそうになる。
 ――でもあの事故以来、アタシはサッカーをしていない。
 それは豪炎寺君がサッカーをすると凄く悲しそうな顔をするから。豪炎寺君も物語通りあれからサッカーを止めてしまった。アタシが怪我をしたのも自分が事故に巻き込んでしまったのだと思っているらしく、何度言っても彼は耳を貸してくれないのだ。
 ……それに、こんなにも身近になってしまった彼の目の前でサッカーをすることなんてアタシには出来なかった。

「誰だ、このボール蹴ったのは?!」

 男の人の怒鳴り声が聞えてアタシは意識を此方へと戻される。若干ヒステリックになっている男2人組は謝った円堂君に突っかかっていた。確かあのチンピラ達は円堂君に……。

「ボールってこれの事か?」

 鳩尾を蹴った背の低い奴とは対の長身の男がボールに座った。その行為が酷く不快に見えてアタシは眉を寄せる。周りも大人とあってか、手出しが出来ず心配そうに円堂君を見ていた。

「安井さん、お手本見せちゃどうです?」
「良いねぇ、やってやろうじゃねえの」

 そう言うと長身の男はボールに唾を吐いた。……もう駄目、無理。胃がムカムカする。勢い良く蹴ったボールはコントロール失い、ベンチ付近にいた女の子に一直線へと向かう。
 アタシが走り出した時には既にもう豪炎寺君が走り出していた。ボールを蹴り返し、強烈なシュートが長身の男の顔面にヒットする。

「や、安井さんっ?!」
「良い大人が、年下苛めんじゃねーよ!!」

 男の顔面から跳ね返って来たボールがアタシの方に来たので、無意識の内にアタシもボールを蹴り上げていた。見事に背の小さい男の顔面にヒットし男は暫く悶絶していたけど、一目散に男を連れて逃げていく。
 ざまあみろ、と思いながらアタシは地面に着地しようとすると豪炎寺君が受け止めてくれた。そのままストンと下ろされ、アタシは豪炎寺君に小さくお礼を言う。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして」

 女の子にお礼を言われ、アタシは笑みを返した。豪炎寺君はというと無言で女の子に笑いかける。(うーん、かっこいいな)

「飛鳥、行くぞ」
「はいはーい」

 歩きだす豪炎寺君について歩きだすと、円堂君に大声で呼び止められた。……今更だけど、もうこれで完全にアタシ物語に関わっちゃったよね。こっちに来てからアタシ考え無しに動き過ぎてるなあ……。

「お前達のキックすげーな!!サッカーやってるのか?!」

 沢山喋る円堂君に、無言の豪炎寺君。生で見ると中々異様なコンビだよねとか考えながら、どうする?と隣にいた豪炎寺君に視線を向ける。彼はというと黙ってろ。と言わんばかりの視線でアタシを見ると、アタシの腕を掴み歩きだした。
 引きずられる様な感じで歩きだすアタシは首だけ後ろに振り向いて、円堂君にごめんね。と口パクで伝える。伝わったかどうかは分からないけど、円堂君が笑顔で返してくれたから多分伝わったと思う。

 ――これが円堂君との、最初の出会い。


2009/10/06


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