七夕
「…景時さんはなんてお願いしたんですか?」
「ん…?」
呼ばれて振り返ると、笹に短冊を結び終えた望美が微笑んでいた。長い時間をかけて結んでいたのだが、彼女の短冊は今にも落ちそうになっている。風に飛ばされては大変だと、景時はさりげなく葉を折り曲げて、望美の短冊が飛ばないように固定しながら言った。
「そうだね……『洗濯がいっぱいできますように』…かな♪」
「ふふ…景時さんらしいですね」
そう微笑う彼女は、どこか大人びて見えた。
「…望美ちゃんは……『このままみんなと一緒にいれますように』」
声に出して読んだ瞬間、思考が停止した。
この願いは…
「あっ…勝手に読まないでください…っ」
「…………」
「…か、景時さん?」
「…あ…ご、ごめんごめん……ちょっとぼーっとしちゃってた……うん、そうだね…みんな一緒にいれたら…」
「はい…確かに、今は戦のことを考えなくちゃならないと思いますが…」
幾度となく、同じ運命を繰り返してきた。この熊野を離れると、みなは別々の道へ行く。これは変えられない運命だ。
「みんなと…一緒にいたいです…」
望美の悲しげな顔に、景時は少なからず罪悪感を覚えた。
「…そう…だね……オレも…」
一緒にいたい、という言葉を飲み込む。そんな無責任な発言はできなかった。
「景時さん」
「な、なんだい?」
「…ずっと一緒にいてくださいね」
一歩間違えれば、プロポーズとなる彼女の発言だが…その言葉の深い意味が、景時には聞こえた気がした。
「……そ、それは…できないよ」
「え…」
「だって、流石にお風呂に一緒に入るのはまずいでしょ?」
「そうじゃなくて…!」
「さ、早く中に入ろうよ。きっと譲くんが豪華な食事を用意してくれてるよ〜♪」
妙に明るい調子でそう言って、景時は手を差し出した。
「は、はい…」
景時の行動に、反射的に返事をして手を取ってしまう。今回も上手くはぐらかされてしまった。
「…ね、望美ちゃん」
「はい?」
「…いつか、オレが君の願いを叶えてあげるよ」
望美のほうを見もせず、手を引いて廊下を歩きながら、景時はつぶやくように言った。
「……はい、信じてますからね」
いつか、君も朔も…みんなを幸せにしてみせる。七夕の願いは叶うものじゃなくて、叶えるものだと思うんだよね…。…大丈夫。同じ願いが2つもあるんだから、きっと叶うよ。
end
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