一日の終わり





「景時さん…ちょっと飲みすぎじゃないですか?」

「ん?…そうかな〜…」

 景時は縁側で月を見ながら晩酌をしていたのだが、いつの間にか傍には空の徳利が4、5本転がっていた。

「…全然、酔えないんだよね〜」

「また、何か問題が起こったんですか?」

 こうして景時がたくさん酒を飲む場合、大体は何か事が上手くいってないときだ。

 少し考え込み、景時は頭をふった。

「…いや、絶好調なんだよね。逆に上手くいきすぎてて恐いくらい」

 望美が景時のすぐ隣に腰掛け、じっと景時の顔を覗き込む。

「な、何かな〜?」

「……嘘、でしょう?」

「えぇっ!?………もう望美ちゃんには嘘はつけないな〜…」

 景時は長い溜め息を吐き、実はさ、と話し始めた。

「平家の残党たちを、どう処分しようか迷っててさ…単に殺すなんてことはできないし、かといって放っておけば、源氏に仇なす敵にもなりかねないし…」

 源平合戦が終わり、景時はそのまとめ役として忙しい日々を過ごしている。

「源氏側に引き込むことはできないんですか?」

「そうしたかったんだけどね〜…平家側にも誇りがあるから、そう簡単にはこっちに付いてくれないんだよね…」

「う〜ん…」

「双方納得のいく解決方法はないのかな〜…」

 景時はそう呟くと、望美の肩に頭を乗せた。存外、酔っているのかもしれない。

「…望美ちゃ〜ん…」

「何ですか?」

「……幸せ?」

 そう言う景時を見やると、気持ちよさそうに目を瞑っていた。

「…すごく、幸せですよ。…景時さん」

 その言葉に、景時の口角が嬉しそうに持ち上がる。

「そっか…」

「………」

「………」

 しばらく、二人とも無言で虫の声を聞いていた。もう寝たのかと景時を見ると、先程まで閉じていた目が開いていた。

「…平家の人たちも、幸せになってくれたらいいんだけどね〜…」

「………そうですね…」

「武士ってさ…どうしてこう…頑固なんだろうね?」

 景時は頭を上げて、望美にゆっくりと口付ける。

「……幸せが近くにあるって…気付けないのかな…」

 口の中に酒の匂いが広がった。相当強い酒らしい。

「…ねぇ、望美ちゃん」

「景時…さん?」

 互いの口が触れるか触れないかのところで会話をする。

「皆を幸せにするにはさ、まずはオレがも〜っと幸せにならなきゃいけないと思うんだよね〜」

 普段酒に強い景時だが、やはりこれほどの量の酒には耐えられなかったようだ。相当酔っている。

「ちょ、景時さん…!」

 言わんとしていることが分かり、抵抗を見せるが、景時はそのまま望美を押し倒してしまった。

「………」

「……寝て…る?」

 景時は自分に覆い被さるような形で、すやすやと寝息を立てていた。

「……びっくりした…」

 そう言いながらも、きっと明日の朝起きたときに必死に謝ってくるであろう景時の姿を想像すると、なんだか愛しく思えてしまう。

 望美は下から腕を回し、景時を抱きしめる。幸い息苦しくもなかったので、そのまま眠ることを決め込むことにした。

「……がんばってくださいね、景時さん…」








fin