理想の人






 理想のタイプはどんな人か、と聞かれたことがあった。

 背が高くて

 かっこよくて

 優しくて

 頼りになって

 賢くて

 お金持ちで

 笑顔が素敵な人

 個人差はあれ、世の女性たちの大半が、このように答えるだろう。


「…な、何かな?…望美ちゃん?」

 先ほどから、可愛い彼女の丸く大きな眼がこちらを見つめてきている。景時と同じく、光の加減で緑色に光って見えるその瞳を見るのが、景時自身、密かに好きだった。しかしその好きな眼にも、こう、ずっと見られていると居心地の悪さを感じてしまう。

「景時さん、身長は?」

「え、えっと…こっちの単位で言うと…186cmかな」

 それに、うんうんとうなずくと、望美はブツブツと呟き始めた。

「…背が高くて…顔も綺麗でかっこいいし……優しすぎるってくらい優しい……」

「の、望美ちゃん…?」

「それなのに、いざってときにはすごく頼りになるし…守ってくれるし……知識もあって…人をまとめる能力もあるし……」

「ちょ……」

「それに…軍奉行だったから、お金持ちで……こっちの世界でも、器用だからすぐ出世しちゃいそうだし……何より、ふにゃって笑う顔がすごく可愛くて……」

「〜〜っ……」

「やっぱり理想の男せ……って、景時さん?どうしたんですか?顔、真っ赤ですよ!熱でも…っ」

 そこで、望美の言葉が途切れる。抱きしめられた衝撃で、驚いて次の言葉が出なかった。

「…望美ちゃん…もしかして…無意識に言葉に出しちゃってた?」

「えっ…ま、まさか…」

 みるみるうちに、顔が火照っていくのが分かった。

「…………」

「わ、す、すいません…!あのっ…さっき、テレビで『理想の男性は?』っていう特集してて……その項目に、景時さんがすごく当てはまっててつい……って何言ってるんでしょう私っ」

「望美ちゃん」

 耳元でささやかれる、低音ボイス。名前を呼ばれただけなのに、一気に混乱していた思考が鎮まった。

「…景時さん、私、独り占めしちゃっていいんでしょうか?バチがあたりそう…」

「望美ちゃん…オレみたいなヘタレで、裏切り者で、嘘つきが……君みたいな、可愛くて、強くて、支えてくれて、…いつも信じてくれる子に愛されてるなんて……それこそ奇跡だよ」

 抱きしめる腕の力を緩め、景時は正面から望美の瞳を覗き込んだ。

「…でもね…やっぱり…」

 深い緑の眼が優しく細められる。

「…オレには君しかいないんだ」

 落とされた唇から、じんわりとあたたかな幸せが広がっていった。






fin