世界にさよならを | ナノ


先頭を走る赤い髪と瞳を持つ彼と目があった瞬間、思いの外冷静な脳内にはよく知っている漫画のタイトルが浮かんだ
だがそれもすぐに打ち消された
彼らの後ろから追いかけてくる、数体のバケモノによって

先ほどのガラス越しに見た巨体の化け物とは違い、人と同じくらいの大きさのモノだが、人と明らかに違うその風貌
兵隊のような鎧を身につけている体は、ある者は腹が裂かれて内蔵を引きずっており、ある者はやけどをしたように赤く膿が出ていたりして焼けただれている
他にも腕が肘の下から折れて半な方向にネジ曲がっていたり、目玉が眼孔から垂れ下がっていたり…
総じて血だらけでそれが通ったあとは赤い道ができていた
そして、鼻を突き刺すような腐敗臭が漂っている
およそ生きている人ではない姿をしていた

私と目があった赤い髪の彼は、こちらを警戒するように立ち止まりかけた
だが、後ろには歩みはのろいが確実に近づいている数体のゾンビのようなバケモノ
この後の展開を考え、逃げるが助けるか脳内で考えていた花子だったが、彼らの後ろから迫るバケモノに思考をとめ、反射的に叫ぶ

「こっちに!!早くっ…!!!」

その声に立ち止まりかけていた一行は弾かれたようにスピードを上げてこっちに走りだした
花子は先ほどいた教室に戻り入口の扉を開けて邪魔な剣を立てかける
そして、教室の前の消火器に目を留めてそれを掴みピンを外す
その頃には走って逃げていた彼らは教室のすぐ前まで来ていた
バケモノ達はの5mほど後ろにまで詰め寄っていた
長い間走っていた彼らは激しく息を切らし、特に水色の髪の少年は暗めの金髪の少年に、桃色の髪色の少女は先ほどの赤い髪の少年に腕を引かれて走っていた
彼らは警戒するように、怯えたような目で花子を見返していた

「この教室に入って!…大丈夫だから!」

少年たちを安心させるように微笑み、教室に押し込む
そして後ろまで迫っていたバケモノに向けて消火器を吹きつけた
古い校舎だったが消火器はまだ使え、勢い良く白い煙を吹き出した
煙の中からは唸るような声が聞こえている
ダメージはなさそうだが、目くらましにはなったらしい
まだ距離が開いていたため残りの煙を噴射し、消火器の缶を右側の教室の廊下のできるだけ遠くに投げ捨てる
そして少年たちの入った教室に滑り込み、音を立てないように扉をしめて鍵をかける

___ガランガランッ…カラッ…____

離れた廊下では消火器が床や壁に当たり、大きな音をたてる

「あんたは…「シッ…今は静かに…っ!」

花子の行動を教室で息を整えながら見ていた彼らだったが、そのうちの一人の金髪の少年が警戒した目で詰め寄ろうとするが、花子はその口を手で抑え、他の3人にも静かにするように指でジェスチャーし窓に映らぬように身を低くする
それを見た彼らも身を低くする
しばらくして煙の晴れた廊下から何かを引きずる音と、唸り声が響く

ピチャ……ズルズル……グオォオ、オォ…

すりガラス越しに血にまみれたゾンビの頭部が見える
ゾンビは自分たちを探すように廊下を歩き先ほど投げた消火器の方に向って通り過ぎていく
しばらくズルズルと引きずる音が響いていたが、廊下を過ぎ階段を降りたのか音は聞こえなくなっていた

ほっと息をつきすりガラスの窓から目線を離すと、真っ赤な顔をして口をふさがれている金髪少年の顔が見えた
今の状況は静かにしようと口を手で塞ぎ身を低くしたことで、金髪少年は尻餅をつき後ろ手で体を支えており、花子はその少年の足の間に体を落とし、傍から見れば押し倒すような体制であった

「ッッッ!ん~…!」
「あっごめんごめん!必死だったからさ~」

慌ててパッと手を離して立ち上がりながらへらりと笑う
押し倒されていた金髪少年は真っ赤な顔のまま起き上がり、勢いのまま話しだす

「~~ッッアンタいきなり何すんッ「福井先輩落ち着いてください」
「そうです!まだ近くにバケモノもいるかもしれないし……」

大声で話しだした金髪少年を水色の髪の少年と桃色の髪の少女が宥めるように話す
それをヘラヘラと謝りながら、先程から感じていた鋭い視線の赤い髪の少年のほうに向き直る

最初からラスボスかよ…どうやって切り抜けるかな
下手な嘘は通じないし…一筋縄じゃいかないな、こりゃ…
脳内では苦笑い全開で背中には緊張から汗が伝う
それを内面に引っ込めて先ほどの柔らかい笑みを浮かべながら、赤い髪の少年に「大丈夫?」と気遣うように声をかける

バケモノから隠れている時から警戒するようにジッと様子を見ていた赤い髪の少年、赤司はその目を見返す
そして花子の問いかけには答えず、静かな、でも有無を言わさせない声色で花子に問いかけた

「貴方は何者ですか?」

(交差した)(私の世界とあの世界)
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