声[ブレイブリーデフォルト/ティズ]
続いている
かもしれない
******
全てを呑み込んだ大穴の、
今にも崩れそうな崖の上に佇んで…
今日もまた、
ああ、これは夢だと、
自覚…しているはずなのに?
(僕は、呼ばれているのかな?)
錯覚をしてしまう。
こちらが現実で、寧ろ今までアニエスやリングアベル、イデアと旅をしてきた事が夢だったんじゃないかとか、疑いたくなるくらいに、今こうして目の前にしている大穴の存在感は絶大で、ただひたすら絶望的な喪失感に襲われた。
無気力なままにこのまま身を投じてしまえば、どんなに楽だろうか、とか
いっそのこと投じてしまおうかとか、
(…)
躊躇う気持ちすら、吸い込まれそうになる。
(ティル、僕も今すぐ追…)
負の誘惑に惹かれるまま、片足が踏み出したその瞬間、
『ティズ!ティズ!』
ティズは何者かに、その腕を引かれた気がした。
ハッと目蓋を開くと、いつもそこは宿のベッドの上の布団の中だった。
(また…、いつもの…夢、)
胸の辺りを抑えながら、ゆっくり身体を起こした。
「…っ!」
一瞬くらりと目眩を起こして、声をあげそうになり、ぐっと堪えた。
辺りを見回すと、隣のベッドに、リングアベルが此方に背中を向けて眠っていた。
時刻は2時を半分回ったくらいだった。
(起こ…しちゃったかな?大丈夫かな?)
表情を伺おうとして、諦めた。
リングアベルは動じることなく、すぅ…と寝息をたてる。
ティズは、ほっと胸を撫で下ろした。
(それはそうと…)
再びリングアベルの背中を眺めた。
(リングアベル、ここ最近は夜遊びしなくなった気がするなぁ…)
あ、っと口を開くと、そういえば…と、思い出した。
彼は数日前“美女から強力な肘鉄を食らった”と、ぼやいていた。
何処まで本気で真実かは解らない。
リングアベルが鳩尾を抑え辛そうにしては、女性陣に突き刺さるような冷たい視線を向けられた。アニエスは言葉を失い、イデアは自業自得だと罵った。
その姿ががあまりに辛そうに見えたので、流石に不憫に思えたが、ティズは『大丈夫?』と一言だけ尋ねる他、彼を宥めるための気の利いた言葉がそれ以上思い浮かばなかったのだ。
(さすがに…懲りたのかな…?)
苦笑して、ティズは額から滴った汗を服の袖で拭った。
そして一度ベッドから降りようとして、止めた。
(音、立てたら良くないよね…)
再びベッドに横たわり、掛け布団を深く被った。
(…)
目覚める瞬間、誰かに呼ばれた気がした。最近聞こえるようになった救いの声。
もう何回だろう。
数えてはいないのだけど、この街に来た辺りからか、聞こえるようになったのだ。
なった…のだが、
(誰の声…なんだろう)
目覚める瞬間に確かに聞いたのに、呼ばれたのに、それがどんな声だったか、思い出せない。
聞いたことはある声なのだ。間違いなく。
だが思い出せない。
必ず手を差しのべて、繰り返される悪夢からいつも助けだしてくれる声。
「…だれ…なんだろう…?」
うっかり声にだして呟いてしまい、ティズはハッとリングアベルを振り返った。
(起こ…)
リングアベルは気がつかないようで全く動じてはいなかった。
ティズは再びほっとため息をついた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐