せんゆ | ナノ

トイフェルとクレア[後]


続き。


*****



誰かに呼ばれた気がした。


(うん…?)

ぼんやりした意識で、妙に重たく感じる肩に無意識に手を掛ける。揉みほぐすように触れ辺りを見回した。
トイフェルが目を覚ましたのは、城の廊下であった。

「!!!!」

あれ、ここなんで廊下?と思いながら、重みを感じて下を見る。
何故か自分に寄りかかって眠っている少年の姿がそこに有って、トイフェルは再び発狂しそうになった。
先ほどの曖昧にぼやけていた記憶が、はっきり蘇える。

それはそれは笑顔で話かけてきた青年。
何ヵ月か前に、自分が助けたー…。

(クレア、とかいう…)

クレアは右手で鞄を抱え込んで、どっしりとトイフェルに寄りかかって眠っていた。
すぴすぴと、幸せそうに寝息をたてる。

(なにこれ…この状況…)

「ん…?」

良く見るとがっつり寄りかかっているクレアが、左手でトイフェルのスーツの裾を掴んでいた。
これでは逃れたくても、剥がせない。

(なんなのコイツー!!!!????)

愕然とした。
緊張し過ぎてパニックになる。もうどうにも抗うすべが浮かばない。赤の他人に謎の事態で密着されているなんて、気持ちわるくて今にも吐きそうだ。

『あのときはありがとう』

先ほどクレアは微笑んだ。

(礼なんかいらない)


極力、いや、全くもって、これ以上他人とは関わりたくない。

トイフェルは頭を抱え込み、深く溜め息を着いた。


(どうする…?この状況…どうすればー…?)

身体が自然に震え出す事すら懸命に押さえ込もうとする。
すこしでも何かあれば、クレアは起きてしまうだろう。

いや、もちろん、起きてもらわないと動けないのだか、起きたところでハイスペックのコミュ力を持つクレアから、難無くして逃れられるとは思えない。

(…どうすればいい…?)

いっそ振り払って逃げてしまおうか?
いやしかし、このまま彼を置き去りにしても置けない。
勇者アルバの友人のその友人。
たしか伝説の勇者とかなんとか…、

(ああさっきなんか説明されたようなきがする)
あの目付きの悪い(恐い)感じの…あの男の名前はなんていったっけ?

『さっきも不審者みたいな目で見られたし』

先程のクレアの言葉を思い出す。
万が一、彼を此処に置いて行ったとして、そのあと不審者として捕らえられたりなんかした暁には…?
誤解こそ直ぐに解けたとしても…だ。
恐らくは“あの(恐い)友人”が黙ってはいないだろう。…とトイフェルは推測する。

「…………!!!!!」

トイフェルは色々想像していくうちに、どんどん表情が青くなる。血が引いていくのと同時に恐怖すら覚えるほどの悪寒を感じた。
……ますます置いてはいけない

アイツは(恐いから)、もう関わりたくない!
クレアの寝顔を尻目に、吹き出す汗を拭う。

「んん…」
「ひッ…!」

不意にクレアが小さく呻いて、トイフェルは身を縮めた。
口元を抑え、声を殺す。

(起き…)

ては居なかった。

「…」

トイフェルはほっとため息を漏らす。
が、次の瞬間、

「あ、おはよー…」

クレアの瞼はぱっちり開いた。

「ひぃい!!!!!」
「えっ…と、あ、トイなんとかさん」
「ふ…ふぇ…っ」

思考とは裏腹に、無条件に身体がガタガタと震えだす。

「!」

もう逃げるすべがない、どうしようどうしようどうすれば??!!!

みるみるうちにパニックになっていくトイフェル。

「…」

何を思ったのか、次の瞬間クレアは手を伸ばし、その身体を抱き締めた。

「っ!!!!!」

トイフェルはもう何も考えられなくなっていた。

「落ち着いて」

クレアは耳元、囁くように問いかけた。

「?!」
「なにも考えないでいいから、力抜いて、ゆっくり息吸って」
「!?!?!?」
「ゆっくりでいいから吐いて」
「……」

トイフェルは言われるまま、ぎこちなく頭で頷いて見せたのち、ぐっと目を閉じた。
クレアはトイフェルの背中を子どもをあやすように撫でた。
びくりとトイフェルが跳ねると「大丈夫だよ」と優しい声をかけた。

「力抜いて」
「…」
「そう、」
「っ…」

触れた胸元からクレアの心臓の鼓動が伝わってくる。

ゆっくり穏やかで、

(あたたかい…)

そして思い出す。
ああ、あの瞬間触れた魂の温もりだ。
あの時初めて触れた、どこまでも聡明で、穢れのない魂。

しかも魔王と恐れられた魂に器を奪われ続けたのに関わらず、全く冒されることがなかった強く清い魂。

(…心地良い…)

「うん、上手上手。じゃあもう一回、」
「…」

言われるままトイフェルは深呼吸を繰り返した。
先程までの動揺が嘘のように自然と、落ち着いていった。
クレアは、同じように感じていたトイフェルの心臓の鼓動が落ち着いたことに気がつくと、ゆっくり腕を解いて放れた。

「…落ち着いた?」
「…」

近い距離でまだまだ馴れないが、トイフェルは視線を逸らさずに首を縦に振り、無言で頷いた。

「ん、良かったね」

クレアは笑顔で返した。

「あ…、…………の……」
「うん?」
「…」

言いかけて、目が合ってギブアップ。
視線を落とした。

(言わな…ければ)

懸命に口を開く。

「あ…」

が、

「クレアー!」

と背後から声が響き、トイフェルの緊張が再び振り返した。

「!」
「あ、シーたん」

クレアは「はーい」と声を上げて返事をすると立ち上がった。
シオンの姿を見つけて手を振る。

「何やってんだ、行くぞ」
「あーい!」
「あ…の、」
「シーたんのほう終わったみたいだから、俺もう行くね」
「…」

ぎこちない様子で、トイフェルは顔を縦に振るう。

「じゃあまたね、トイフェルさん」

そう言ってトイフェルに手を差しのべた。
トイフェルがおずおずとその手を取ると同時に、

「あ、思い出した。トイフェルさんだね、トイフェルさん」

今ごろになって名前を思い出したことに気がついた。

名前を思い出したことが相当嬉しかったのか、クレアは「トイフェルさん」と何度も繰返してはにっこり微笑んだ。

「…」

ぽかんとそんなクレアを見上げると、トイフェルは重ねられた手をぎゅっと握り返した

「じゃあバイバイ」

再び「またね」と付け足すと、手を振り、クレアはシオンのいる方へ駆け出した。

「置いてくぞ」

「わああ!待って待ってシーたん!いま行く〜!」

先に歩きだしたシオンを慌てたようにして追いかける。

「せっかちなんだから〜」

クレアはようやく追い付くと、その背中に飛び付いて、素早くシオンから肘鉄を喰らっていた。

(…なにやってんだ…)

その光景を茫然と眺めていたトイフェルは呆れた口調で呟いた。

どつかれた腹部を押さえながら、クレアは再びトイフェルに振り返り、トイフェルの肩はびくりと跳ねた。
クレアは笑顔で大きく手を振ると、間もなく先を行くシオンの後を追っていった。







******

クレアはわりと無意識に人助けとかしちゃうイメージです。
上の突然の抱擁とかも無意識ですね。
なぜと聞かれても何でだろう?なんとなく?みたいな感じで返して来るんじゃないかと。

本人が気がつかないうちに何気ない行動で相手を助けたり答えに導いてくれたりとかしそう。

三章の時系列ってどうなっているのか。
曖昧なままなんですが、魔界に移転してからの家庭教師なのか魔界に移転する前から家庭教師やっていたのか…トイフェルはいつからトゥメイトゥに駆り出されていたのか
でいろいろ変わってくるのですが、
今回は
シーたんはアルバが魔界に移転する前から家庭教師
トイフェルはトゥメイトゥにはまだ駆り出されてない
で展開いたしました。



とかいいつつ、魔界に移転してからの家庭教師なんだろうなとか思っている小湊です。トゥメイトゥはわかりません
トイフェルさんとアルバが二章以降の面識がなかったら泣いてしまうかも知れない…原作はどうも展開を急いでいる気がする。エルフとクレアの件とか、事後報告じゃなくてもう少しゆっくり展開して欲しいなぁ…
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