涙の向こう側[トイアル]
幽閉勇者と怠慢執事
ぼっち寂しいアルバの牢屋に
トイフェルさんが遊びにきています!
からのトイアル
トイアルですが
気持ちトイ→アル→シオ
みたいなかんじに見えます注意
注意
web版だけど一部にSQ版エピソードが入っている
ちょっと8/8に追記しました
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トイフェル・ディアボロス
出会った時に比べ、随分と話すようになったトイフェルは、この城の執事長という立場にありながら、まず働かないのだという。
気付くと、彼はアルバの幽閉されている牢獄に毎日の様に通うようになっていた。
サボる以上にトイフェルが此所へ通う理由を、他に見出だせなかったアルバは、ただそれを善意と受け止めていた。
何だかんだ言って暇をもてあましている自分を気遣ってくれているのだろう、“サボる次いで、という前提”に…と、一方的に考えていた。
勿論、特別な感情がそこに存在している事など知るよしも無かったのだ。
そして今日もまた…
「あ、いらっしゃいトイフェルさん」
「…どうも」
軽い挨拶の後、躊躇なく扉を開き当たりまえのように自ら牢獄に入る。
トイフェルはいつもの様に、アルバの隣に座り込んだ。
「ふぁああ」
座るや否や、背伸びをして欠伸を一つ溢した。
(大きなあくびだなぁ…)
ぼんやりと横で眺めていたアルバを尻目に
「浮かない顔、してますね」
唐突に問いかけた。
「そ、そうかな?」
図星を突かれてアルバは動揺した。
「人間正直が一番ですよ、アルバさん。ああオレが言うのもなんですけど?」
「…僕はもう、人間って言っていいのかもうわからないけど」
苦笑する。
「貴方は人間ですよ」
「え…?」
振り返ったアルバの肩に手を乗せ、トイフェルは微笑む
「ちょっと他の人より特別強い力を持っているってだけで…」
「トイフェルさん…」
「なので、」
「?」
「その特別な力で今日もお願いします」
肩を指差しにっこり笑う。
「わぁー、なんか今ちょっと良い感じだったのに台無し」
肩透かしをくらったような、とくに理由こそないが、何となく何かを期待してしまった自分が妙に恥ずかしくて、誤魔化すようアルバは苦笑した。
「うんー???」
「あ、いや…なんでもないです」
アルバはそう言いながら笑って、
じゃあ背中向けてください、とトイフェルを促した。
「ふぁああ眠いなー」
トイフェルは再び欠伸をかいて、言われるままアルバに
背を向け、ぼんやりとした口調で話出した。
「へぇ?」
アルバはすこし力を入れて、トイフェルの肩に触れた。
青く淡い光が仄かにトイフェルの肩を照らし出す。
「オレの部屋から此処まで遠くてですね…来る途中でくたびれちゃうんですよ。起きたばかりなのにもう限界」
「あれ?トイフェルさん、起きたばかりって、今日はまだ仕事してないの?」
「はい!しません!」
キリッとした表情で顔だけ振り返ったトイフェルに、アルバは思わず『そこはせめて“まだしてません”でしょ!』と勢いでつっこんだ。
トイフェルは『ちなみに明日も明後日もしません』などと力を込めて付け足した。
(給料泥棒だ…)
全くこの人は…本当しょうがないな…
本当に仕事しないんだなぁ。
「…なのに肩はバキバキ」
「はい?」
「ああいえ、なんでもないです。はい!今日はこんなもんで良いかな?解れたみたいだし」
「延長希望します!」
「え…延長!?」
「アンコール!アンコール!」
「それは…なんかちが…」
「では追加料金払うので宜しくお願いします」
トイフェルはそういいながら、ジャケットのポケットに手を突っ込み、がさがさとなにかを探し始めた。
「追加料金!?いやいや僕、お金なんて…!」
アルバはあわてて首を振ったが、トイフェルはアルバの手首を掴むと、その手のひらにポケットから取り出したものを落とした。
「…飴?」
「此処へくる途中、メイドの一人から預りました」
「はぁ…いやでも、」
「どうぞ」
美味しいですよ(多分)とトイフェルは促した。
「(多分て)い…いた…だきます…」
包み紙を開いて出てきた丸い飴を、アルバはすぐに口に含んだ。
イチゴ味だった。
「ん…美味しい」
「それは良かったですね」
「久しぶりに食べたなぁ、飴」
口の中でゴロゴロと飴を転がしながら、「ありがとうトイフェルさん」と礼を言ったその瞬間、
「…ぁ」
脳内に声が響いた気がした。
小さく口を開く
あれは何時の事だっけ?
『ほら、これあげますから』
とロスから差し出された袋。
のど飴だった。
「…」
まだアルバが旅に出始めたばかりで、一人ではなに一つ満足にこなすことが出来ない未熟だった頃の話である。
そういえば飴を舐めたのはあれ以来だった。
いま貰ったこれほど美味しいものじゃなかったけど、
今となってはそんな些細なやり取りさえ、大事な旅の思い出の一つだったりするわけで、
(あの頃は、シオンの正体なんて知るよしもなかったんだよなぁ…)
実は伝説の勇者クレアシオン本人だった、自称戦士ロスと、まだ10歳の小さな少女なのに、実は“三代目魔王ルキメデス”であるルキちゃん。
考えれば考えるほど不思議な組み合わせの三人で、
どつかれたり貶されたり、それでも…
それでも、なんだかんだいって楽しかった。
「…あ」
(…だめ、だ…思い出してはだめ…)
『勇者さん』
『アルバさん』
記憶の中で二人が笑う。
(僕は…)
「アルバさん?」
「…」
「アルバ…さん?」
「はっはい?!」
トイフェルに呼ばれ、何度目かでアルバは跳ねるように驚いた。
「どうかしました?」
顔だけ振り返ったトイフェルとバッチリ目が合って、アルバはあわてて視線を落とした。
「え?いやあのこの飴美味しいなぁなんてハハハ…」
苦し紛れの言い訳のなんとまぁ、痛い事。
自分でもなにを言っているんだ、と思いながら、アルバは再び顔をあげると苦笑いで返した。
「そうですか」
(そういう顔じゃなかったけど?)
「ごちそうさまです。トイフェルさん」
「どういたしまして」
「…」
アルバは慌てたようにして再びお礼を言って頭を下げた。
そして、不自然なまでに挙動不信になっている自分にじっと視線を向けるトイフェルを、これ以上向きかおる事が出来なかった。
「あはは…熱いですね、今日」
アルバは鉄柵の向こう側にある階段を見上げた。
熱くなっているのはもちろん自分だけだが、他に気の効いた言葉も話題も思い浮かばなかった。
(うわあああ何言ってるんだ僕はっ…)
なにか適当な話題でも乗っかってしまえば多少は誤魔化せる…ような気がした。
「…」
しかしトイフェルは、動揺しているアルバの話には乗っては来なかった。
何を思ったのか、無言のまま、ひとり落ち着きのないアルバを振り返り、腕を伸ばした。
「…っ!」
直後、アルバの後頭部を包み込むよう腕をまわしてそのまま引き寄せると、やはり無言のまま、アルバの唇に自分の唇を重ねた。
(泣…?)
一瞬だった。唇が触れる瞬間、ほんの少しだけ目尻に涙を浮かべ、でも堪えよとしているアルバと目が合った。
(あれ?俺これ泣かした?)
トイフェルは一瞬躊躇したが、
(いやこれは…)
「っ…トイフェルさ…」
呆然と自分を見上げるアルバを尻目に、
「…イチゴ味?」
「っ!」
「んー甘い」
ぼやきながら、トイフェルはその味を確認して頷いた。
「ななな…なにやってるんですか!」
「なにって…ああすみません、アルバさんがあんまり美味しそうに食べているので、ちょっと味が気になってしまいました」
「へ…?」
「コレ」
トイフェルはべーと舌を出して、その上にある飴を“コレ”と指差した。
それはまさに今、アルバが口に含んでいた飴だっだのだ。
そこではじめて、アルバは自分の口の中から飴が消えてなくなっていたことに気がついた。
いつの間にもって行ったのか、あの一瞬でどうやってもって行…?
「!!!!??」
アルバは先ほどのキスの感触を思いだし、それ以上を想像して、顔を真っ赤にして返す言葉を失った
。
一瞬だけど確実に感触は残っていた。
「…まぁ…なんというか、味がどうこうってのは建前で…あれ?」
「…」
アルバは口元を手のひらで覆い、唖然として固まってしまっていた。
「アルバさん?」
「あのねトイフェルさん…」
「はい?」
「自分が何したか、分かってます?」
「アルバさんの口の中から飴奪「うわあああ!」
トイフェルが答える前にアルバはあわてて声を上げた。
「それは一般的にキスって言…」
「はい?」
「〜〜〜〜〜〜〜っ」
火を吹くような真っ赤になってアルバは自ら放った言葉に恥ずかしくなって絶句した。
そして今度は両手で顔を覆い隠し縮こまってしまった。
何だこれどういう状況?
男同士でなんでこんな事態になっているんだ?
ていうかトイフェルさんはなんでこんな急にキスなんかしてくるんだ?
意味がわからない
全く、こんなタイミングでなんの嫌がらせなのか、
いやいや
この人がそんな意味もなく嫌がらせなんて、するわけないじゃないか、シオンじゃあるまいに?
いやいやいやいやまてまて!本当になにを考えているんだ僕は!
アルバの脳内で良心を手招く天使と疑念をけしかける悪魔が言い争い、次第に殴りあいのケンカを始めてしまう。
経験の淡いアルバは、残念ながら“その可能性”までは想像すら出来なかったのだ。
気持ちが右往左往するあまり、もう収集が付けられなくなっていた。
「アルバさん」
呼び掛けて、動じないアルバの肩に触れた。
触れた瞬間、ビクリと跳ねる。
「とりあえず、味確認出来たので、この飴お返しします」
トイフェルはそのまま再びアルバに迫った。
「え…?あいやあの、ちょっと待っ…!」
困惑しているアルバは、慌てて逃れようとして、だがしっかり捕まれた肩の手はそれを許してはくれなかった。
「んっ」
されるがままにキスをする。
触れた瞬間に丸いそれが唇をこじ開けるよう押し入ってきて、口内にその甘味が一気に広がっていった。
(あ…ま…)
そして再び重ねてられたキスは、これで終わりではなかった。
「…っんん…!」
流れ込んできた飴を転がすように、トイフェルは自分の舌をアルバの舌に絡ませた。無意識に逃げたがるアルバを、どこまでも追いかけて躊躇なくアルバの口内で暴れ回る。
(トイフェルさん!)
「ぁ…ふ…」
無意識にいやらしい声を上げた自分が恥ずかしくて、アルバは再び涙を潤ませた。
「…っ」
唇の端から吐息と共に交ざりあった二人の唾液が顎を伝って溢れ落ちる。
「…トイフェルさん?」
ようやくアルバを解放したトイフェルは、半泣きのアルバに再び呼び掛けて、
「あ…すみません」
申し訳なさそうに謝った。
(や…やり過ぎた?)
「…冗談にしては…ははは、ちょっとびっくりしました…」
アルバは震える声でそう言うと、溢れた涙を腕で擦るように拭う。
(…どう返せばいいのだろう…)
良くわからない感情が渦を巻く
この感情が、喜怒哀楽の何に値するのかもわからない。
この溢れた涙すら、何処から来ているのだろうか。
曖昧な靄が晴れなくて、トイフェルをあからさまに罵倒して拒絶することも、肯定して受け入れるすることも出来なかった。
「冗談…」
懐辺りがチクリと傷んだ気がした。
「冗談…か」
「え?」
「いえ、以後気をつけます」
「はぁ…」
(以後…て、どういう意味だろう…)
アルバは首を傾げながら、しかしそれ以上は問わなかった。
(正直、冗談で済まされるとは思わなかった)
こんな簡単に、横流しにされてしまうとは。
“建前”だといった言葉は、おそらく届いていなかったのだろう。
(単に鈍いだけなのか…?どちらにせよ、)
これで本音を伝えるタイミングも、触れる機会すらもすっかり無くなってしまった。
(……)
これならいっそ、派手に罵られた方が良かった気もする。
「アルバさんは、飴とかに特別な思い入れなんかあるのですか?」
「え?いや特には、食べたの久しぶり、くらい?」
(じゃあ、あの涙は…?)
「…最後に食べたのって?」
「ロ…シオンに貰ったのど飴…かな」
一瞬アルバの視線が宙を游ぐ。
「って言っても、なにか特別な事ではないんですよ…ただののど飴だし。それにそれをくれた理由だって…なんというか…」
あからさまに表情が変わって、動揺する。
(ロス…シオン…)
ああそうかと、トイフェルは独り頷いた。
なんだか尋問みたいだなぁとアルバが苦笑した後、
「アルバさん」
「はい?」
「今日はもう戻ります」
「え?」
アルバは一瞬言葉に詰まったが、直ぐに笑顔で頷いた。
「あ、はい」
「すみません急に」
「いえいえ、今日もありがとうございました。トイフェルさん」
「いえ」
「また、遊びにきてくれますか?」
「明日も来ます」
たまには仕事してから来てくださいね
などと付け足してアルバは笑った。
「…」
再びなにかを言いかけて、出来なかった。
肝心な時に言葉に詰まってしまったトイフェルは、アルバに軽く会釈だけして牢獄を後にした。
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トイ→アル→シオ
みたいなイメージになってますが、本気で意識しているのは恋愛的な感情からではなくて監獄ぼっちさみしいからです
。またシーたんとルキたんと楽しく旅をしたい。とか
トイフェルさんが思い込んでいる次第ですごめんなさい
アルバも案外言わないと気がつかないニブチンだと思ってます
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