*参戦

・取引と二人の司令塔

「2分だけよ、伊月君」
「2分かぁ。……5分じゃダメ?」
「ダメよ、2分」
「……じゃあ4分」
「ダメよ」
「どうしても?」
「どうしても」
「…………せめて3分!」
「だーかーら、」
「頼む、カントク! この通り!」
「…………」
「…………」
「……絶対無理しないって約束出来る?」
「もちろん!」
「……はぁ。貴方には負けるわ、伊月君。3分間だけね。ただし本気は出さないこと!」
「はーい。やった!」


「ってな訳だから、3分譲ってくれよな、降旗」
「もちろんです! 先輩の身体が大丈夫なら何分でも! ……でも無茶しないで下さいね?」
「ふふ、分かってるよ。ありがとう」



・誠凛では当たり前なのです

 日向が自然な動作で右手を差し出せば、これまたごく自然な動作で自らの左手をその手に預けた伊月が、日向に支えられながらベンチから立ち上がる。

「じゃあ、久々に頼むぜ、主将」
「それはこっちの台詞だ、司令塔」

 試合の勘、鈍って無いだろうなーなどと軽口を叩きながらも、日向は伊月が汗で濡れる床で滑らぬようにと、最新の注意を払って、彼をコートの近くまでエスコートしていく。

「伊月先輩、ジャージ、持っていきますね」

 そこまで共に着いてきていた福田が、冷えないようにと伊月の肩にかけられていたジャージを丁寧に取れば、伊月はありがとう、と柔らかく破顔する。それに対して福田もどういたしまして、と微笑んだ。
 そうこうしてる間も、伊月の左手は以前日向に預けられたままであり、伊月と福田のやり取りをそっと微笑んで見守る彼の表情は、限りなく優しい。
 読めない状況に、秀徳一同は思わず呆然とする。だがそんな秀徳とは裏腹に、誠凛は涼しい顔だ。むしろ当然というばかりの表情に、秀徳一同は色々とツッコミたかったが、やめた。諦めたといった方が正しいかもしれない。だって、結局は一周回って自身に疲労という形でのしかかってくると分かっているからだ。賢明な判断である。



・困惑の秀徳、幻を見る

「……さて。すみません、秀徳の皆さん。お待たせしました」

 どこか和やかだった空気は、コートの淵に佇んだ伊月がそう言った瞬間に、粉々に霧散した。

「っ、とこれは……」
 彼から放たれていたのは、まさしく闘志だった。おさえようにも、本人ではもう押さえきれないのであろうそれは、けして目に見えないはずなのだけれど、余りの苛烈さ故に透明と言う名の彩色を手に入れ、伊月の周りで渦巻いているように見えた。
 思わず口元を引き攣らせた宮地の横で、高尾が咥内に貯まった唾を飲み込む。そうだ、と宮地は思い出す。ポジション上、この伊月とのマッチアップをしなければならないのは、まさに高尾だ。

「(……呑まれてくれんなよ)」

 百戦錬磨であるはずの宮地であっても、心中、思わずそう祈ってしまった。
 それほどまでに彼等を震撼させる“何か”を、今目前に佇む華奢な少年、伊月俊は、持っていた。



・猛禽類の会合、警鐘を唱えるは鷹

 礼を口にすると共に、伊月は日向に預けていた手を自らの元に引き寄せる。日向はその礼に対しては何も言わず、ただ伊月の頭を優しくクシャリと撫でて笑い、自分のポジションへと戻っていった。
 それを横目に、伊月は真っすぐに、コートを見つめる。仲間の顔を一人一人見て、頷きを返してくる仲間に微笑みを投げる。そして、一礼。腰から丁寧に背を折り、敬意を込めた礼を、コートに送った。
 して、ゆっくりと上げられた伊月の視線が、高尾との視線とかちあった。

「よろしく」

 何度目か分からない三日月を、優雅に描いた、唇。
 瞬間、ゾクリ、と。彼の瞳の中に宿る“それ”を見てしまった瞬間に、形容しがたい“何か”が、高尾の背筋を凄まじい勢いで走り抜けた。

 伊月の、染まりきった夜の色をした瞳の中で輝くのは、反射したライトの光。しかし、高尾は確かにその中に、別の光があるのを見つけていた。
 それは、“飢え”であった。
 戦いに対しての、運動に対しての、バスケに対しての。
 競い合うことに対しての、苛烈なまでの、“飢え”だ。
 美しき瞳の中に宿るには、如何せん物騒とも思えるその感情が、まるで獲物を狙う猛禽類のように、伊月のその中で煌々とした輝きを見せていた。


 一体伊月がどうしてそこまで“飢え”ているのか、高尾には分からなかった。そもそも飢えているのは高尾達秀徳も同じくであり、むしろ高尾達の方がその飢えは大きいはずである。
 だけども、伊月の瞳は飢えていたのだ。その理由は分からない高尾であっても、分かることは幾つかある。
 一つは、ここでけして油断してはならないということ。今までベンチにいたからと言って油断をして、驕りを抱いたとしたら、飢えた爪にあっと言う間に狩られる。それが分からないほど、高尾の場数は少なくない。

 そして、もう一つ。
 これは、理解どうこうではなく、直感だった。

「(この人は、格上だ。それも、格別な)」

 例えるならば、彼は、王であると。
 このコートという名の空を支配する、絶対的な王であるのだと。
 高尾の中に住み着く“鷹”が、野性の本能でそう囁き、全身を警戒させたのを、確かに感じていた。

 だからといって、高尾に負けるつもりは毛頭ない。むしろ叩きのめし、初夏の悔しさを倍返しにするつもりでいる。
 しかし、彼の内側に住み着く鷹は言う。王に逆らうこと勿れと。
 逆らったその先に、あるものなどは見たくないと。

「――――……こーれは冗談、キツイっしょ」

 内側で相対する不可思議な感情に惑い、下唇をはみながら苦々しげに呟けば、それを掻き消すかのように鳴り響くホイッスル。
 同時に、高尾の眼には確かに見えた。
 彼の背に、今まで畳まれていた大翼が広げられ、待ちくたびれたように大気の感触を確かめ、羽ばたいたのを。

 狩りの引き金が、今、弾かれた。




〇VS秀徳戦(ウィンターカップ)
伊月さんは引き金を弾くために三分間だけ投入。
その三分間の間に、ラン&ガンの引き金を弾き、ついでと言わんばかりに高尾をぶち抜き、緑間にはスティール噛まして、生意気な後輩二人に対してある程度押さえた本気で暴れてくれたら良いとます(笑)
あとホントは火神の超跳躍をフェイクで交わした緑間さんからボールをスティールする伊月さん書きたかったんだが、文の上限&手が疲れましたorz


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