何してるの。


尋ねられるでもなく紡がれたその言葉に暫しぱちり、と目を開いた。ただ、まともに話したのは初めてだったと記憶している。それだけ。早く生徒会の仕事を終わらせて帰りたい。声をかけられた日は何故だかそんな気分だった。勿論、頼まれて遣っているのだから手を抜くような真似はしない。別段、彼方がどうなろうと此方の知ったことではないが、僕等の働き次第で、生徒会長である秀吉の評価が下がるのは許せない。時折下がってくる眼鏡をまた定位置へと戻しながら、一向に終わる気配のない紙の束をうろん、と見やった。生徒会室の外では、部活動の生徒がそれぞれ精を出しているのが響いてくる声に窺える。叫んでいるのは真田くんなんだろうね。あの声は人間凶器に価するよ。そんな中でも、壁に掛けられた時計だけは、かち、かち、寸分の狂いもない時を示していた。

がらら。

唐突に。本当に唐突に扉が横へと滑った。立っているのは、随分と小柄な少女。僕や毛利くんも男の中では小柄だと云われるが、目の前の少女はその僕等より遥かに頭の位置が低いことが見て取れた。少しだけ猫のように吊った瞳が此方を捉えると同時に、いた、と聞き取れるか取れないか、ぎりぎりの声を発してすぅ、ぱたり、すぅ、ぱたり、と癖なのだろうか。摺り足で歩み寄ってきた。僕が座っている机の前までやってくると、一枚の紙を徐に差し出した。

『これ、落ちてたよ。』

少女にしては低い、あまり映えるようなものではない声が、小さく、小さく、洩れた。すまないね、と受け取って。ふるり、と一つ振られた頭がまた独特の足音で扉へと向かう。僕はというと、また書類の山に頭を切り替え、手元に視線を落とした。その時だ。特に抑揚のない声音で彼女はそう言った。一瞬誰に言っているのか、分からないほどの小さな声で確かに言った。一体何のことを示しているのか、さっぱりだ。疑問符を浮かべたまま彼女を思わず凝視。すると、また独特の足音で歩いてきた。ほぼさっきと同じ動作でプリーツスカートのポケットから何かを取り出すと。

『お疲れ。』

これまた小さな声で呟いて。来たときと同じ音を立て、扉が閉まった。包装紙がやけに派手なソレは、あの彼女のイメージとは随分違う気がして少しだけ笑えた。味は、きっと甘いはず、だ。

亜麻色に融ける



(優しく紡ぐ、)
(その色は。)






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テーマ「人外ファンタジー」
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