普通じゃん。そう言われたらソレまでだけれど。 放課後の校内に響く笑い声や部活動中なのか、管楽器の音、叫ぶ声。私の通っている学校は綺麗で新しい。その分、響いているのかもしれない。どこかぼやっ、としながらくあ、ふ、と欠伸をかみ殺した。 (ん、と。) おっと。またぼんやりしていた。ふる、と頭を一つ振り、座っている机へと意識を移して手に持ったシャーペンで書き加える。豪炎寺修也、鬼道有人、吹雪士郎、不動明王…などそこに書かれているのは、我が校のサッカー部員達。そう。今現在、自分は、部活動の生徒達の名簿をつけている。本来なら、立候補でもしなければ、それも、よっぽど物好きな人しかやらないとは思うのだが。 早いが話、捕まったのだ。先生に。 ちょろっと近道をするため、裏門を通って帰ろうと思ったのが間違いだった。あまり人が通らない方へ行ってしまったのが運の尽き。偶々、居合わせた担任教師に、この仕事を任せられてしまった。まぁ、仕方ない。さっさと終わらせよう、と思い、やり始めたのだが、今日は、冬にしては長閑で暖かい。ついつい、和んでしまうのだった。ふ、と窓の外を見てみれば、件のサッカー部が盛んに活動中で。そういえば、ここのサッカーはどこか常人離れしているな、と。ふくふく、と頬が緩んで漏らされた笑いを抑えきれないまま、その光景に入ってきた橙色の光に、目を細めた。 不意に。 ガラリ、と。戸が開いた。 「、人、居たのか。」 独特のドレッドヘアーに顔にかけられたゴーグル。若干、驚いたように例のサッカー部に所属している鬼道有人くん、だったっけ。何とか名簿の中から名前を見つけだして眺めた。 『どうしたの?えと、鬼道、くん。』 相手は、此方が名前を知っているのに、少し驚いた様子だったが、あぁ、と首を振り。 「いや、この教室に名簿を置いてあると聞いたんだが…。」 あぁ、担任にか。かたり、立ち上がり、窓際の席から扉の方まで足を進める。ほい、と名簿を差し出した。 『今、書き終わったとこだから。漢字とか、間違えてたら言って。』 「、あんたが書いてたのか?」 「うん。」 そうか。呟いて鬼道くんは受け取るのか、左手を出し、て? 『これ、何?』 「スポーツ飲料。」 いや、それは見たら分かる。聞きたいのは、何故私に差し出しているのか。 「俺達の名簿を作って貰ったんだ。その礼だ。」 意外に律儀な人だ。だが。 『いや、これ鬼道くんのでしょ?練習用に買ったんじゃ、』 「いいから。」 ひやり、と。冷たい感触が頬と首あたりに走る。何時までも受け取ろうとしない自分に、何とか受け取らせようとしたのだろう。わたた、と慌てて落ちないように左手で支える。あ、れ。名簿がない。 「ありがとう。」 右手に名簿を持った彼が、少しだけ、少しだけ、微笑んだようで。小走りで去っていく背中を、ぽかん、と見つめるしかなかった。はたり、我に返って、左手に収まっているペットボトルに目をやる。 『冬なのに、冷たい飲み物って。』 飲めるかなぁ。私の体温で冷たいはずのペットボトルは、じわり、とどこか温かいように思えて。彼のようだと、そう思った。 暮れなずむ (ふわり、と) (帰り道で) |