ザザァ…ン、ザザ… 波打ち際に二つの影。 銀の髪に紫紺色の眼帯、鍛えられた体躯の男は、四国・西海の鬼と呼ばれ、恐れられる長曾我部元親。 もう一つは、元親よりも、かなり小柄な女だ。 女が口を開いた。 『ね、チカ。』 「んぁ?」 『…人魚姫って覚えてる?』 くぁ、あくびをかみ殺す彼は、ぐ、と一つ伸びをして、 「人魚姫だぁ?…、前になんか言ってたな。」 クス、やっぱり忘れてたんだ、と女、狐火は笑った。 "兄貴ぃ!人魚が網に掛かりましたぜ!" "あぁ?" 狐火は元親に拾われた。半月ほど前、元親の船の網に掛かっているのを見つけられたのだ。 目覚めた彼女は、酷く狼狽していて、何かが動こうものなら、泣き叫びながら、襖の側まで下がっていた。 落ち着きを取り戻した彼女に、何故海にいたのか訊いてみるが、どうも記憶をなくしているらしかった。 『感謝してるよ、チカ。ホントにね。』 「何だぁ?突然んなこと言い出しやがって。」 "頭沸いたか?"悪戯を思いついた子供のように、笑う。 「人魚姫はね、好きな人を追って海からやってきたんだよ。」 ぽつり、 「報われなくて、泡になっちゃうんだ。」 雨、が、 「短剣で刺せば助かったのに、自ら海に飛び込んだ。馬鹿だよね、一人の男に現抜かしてさ、」 ス、と苦無を懐より取り出す。雨で視界が良くない。 ドドドッ、ダン。 鋭利な雨が降る。カカッ、キィン、頭上に飛び上がると、躯をひねり、突き。 「、っ、は」 互いを見据え、ソレと同時に地を蹴った。ぱっと上がる鮮血。火花が散る。 ダンッ、一瞬の隙をつき、彼女のモノが彼に迫り、 『あ、駄目だわ』 ギラリ、妖艶なまでの光を放つソレが、向かった先は、 虹、かかりて、雨 (ぽたり、) (砂浜が吸ったのは、) |