DREAM | ナノ





刑部に言われたことだけどあたしは俗に言うツンデレらしい。確かに思ったことと己の口が働いたときに出る言葉は正反対だけれど刑部も大概だと思う。(そう言ったら無言でひっぱたかれた)言いたかったのはそんな事じゃなくて、三成にいい加減こっちを振り向いてほしいことなわけで。口を開いたら秀吉様秀吉様。朝昼晩ご飯の時もテレビ見てる時もあたしが風呂に入ってる時だってドアの向こうで一人でくっちゃべってんのよ。同棲してる恋人同士のすることじゃないでしょこんなの!どんっとテーブルを叩けば向かいに座っている幸村君の肩が大きく揺れた。

「狐火殿、落ち着かれよ、」

『これが落ち着いていられるかっての!ああもうドリル爆発しろ!』

「ド、ドリル…?」

困惑気味な幸村君はおいといて尚もあたしは愚痴る。粗方愚痴った後でなんだか無性に虚しくなった。付き合っていてなんだがあたしは三成のことをあまり知らない。食事も頓着しないし、興味を持つのは上司のことだけ。たまに半兵衛さんの話が出てくるくらいなものだから他にする話もない。仕事もこちらが呆れるほど完璧にこなす。文句のつけどころといえば性格くらいなものなのだが、こちらが口を開く前にいつも遮って秀吉さんの話を始めるのが三成なのでもうあたしは諦めているのだ。ふと寂しくなるけれど、素直に言えるわけもないからあたしは泣きもしないし怒りもしない。三成は三成で悪気があってやっていることではないので、この状況の堂々巡りなのである。びくびくしながら帰って行った幸村君には悪いことをしてしまった。なにか今度お詫びを、と考えていた思考へ飛び込んできた底抜けに明るいインターホン。三成が帰ってきたようだ。開いてると一言インターホンごしに声をかければ出掛けたときと何ら変わらぬ表情と埃一つ無いスーツでリビングへと入ってきた。帰ってきてそうそう悪いのだがああもう我慢できない!

『ねぇ秀吉さんのことどう思ってるの?』

「尊敬いや崇拝すべきこの世の方とは到底思えぬ素晴らしい御方だ。」

言 い き り や が っ た !
これは拍手もんだろう。そして殴らなかったあたしにも賞賛を送ってほしい。

『じゃあ半兵衛さんは。』

「素晴らしい軍師であり兼参謀の秀吉様の右腕であせられる御方だ。」

軍師ってなに。

他に刑部のことを訊いたら急に懺滅する!とか言ってキレたのでそれ以上は詮索しなかった。なにやらかしたんだ刑部。さてここからがかんじんなことだ。単に自分はと訊けばいいのだがそこはあたしの性分、んん、プライドがそうは問屋が卸さない。三成はそういうこと、いやどういうことかって確認とかだから好きだって言うことよ察しなさいよばか!つまりそれを自分から言ったりするやつじゃないからあたしからしか言わないのだ。けれどあたしだって一回は彼から言ってほしいわけで、あーもうそれを正直に言えたらこんな苦労してないわよ!

『、あたしのことは』

突然テレビをつけて座り込んであたしを手招きするもんだからかなり面食らう。訊いてなかったのかとむかむかと腹が煮えくり返って一発ガツンとかまそうかと腕を振り上げたとき。

「好きだから帰ってきたんだろう狐火。共にテレビを見るぞ。」

デレたことを喜ぶべきか秀吉様が出るのだと無邪気にはしゃいでいるやつをやっぱり殴るべきなのか誰か教えてくれないかしら!




嫌いの反対の反対の反対


title by「彼女の為に泣いた」