DREAM | ナノ





どちらへゆかれるのでございますか。未だに聞き慣れぬ幼子の声に三成は隠すことなく息を吐き出した。つい十日ほど前に己の伴侶となった見目はまだ七つ八つの幼い娘。そして年相応の爛漫な性分のようで屋敷内で見かける度に、決まって側付きはほとほと困りきった顔をしているのだ。だからといって三成は娘にかけらほども関心を移すことはなかった。妻など必要がない。三成にとってそれはちょうど飯など必要がないと考えるのと同格であった。どちらも戦人には不要。そして今、その同格の二つが同時に部屋へとやってきたのである。周りの制止を振り切ってわざわざ自らで持ってきたのであろう碗が小さな手によって支えられている。

「貴様に関係ない。」

『わたくしは妻にございます。』

「要らぬ。」

淡々と返すが目の前の幼子は笑みを絶やさずまたその場を退こうともしない。尤も泣き喚いたりしたところでどうと言う気もない。三成には他人ごとであるとしか受け取っていないのであるからして、刑部に仏頂面と称されようがぴくりともしない眉はやはり一寸たりとも動かされることはないようであった。妻と娘は言うが、本来の夫婦であれば前田の領主とその嫁ではないのだろうかと三成は思う。あいしあいされる。それは自分の周りが話していることであったから夫婦というものを知らなかった三成はただそういうものなのだと認識したというだけのことだった。全て自分が中心として廻っていると思われがちな三成であるが、実のところ周りが言っていたからやっていたから。そんな思考の持ち主であった。つまるところ、素直といえば素直で愚直といえば愚直なのである。三成も己自身に疑問も持たなかったし周りも口出ししなかった。

『存外つまらぬのでございますね。』

「そうか。」

だから三成は無邪気と称される幼子が突然冷徹な雰囲気を持ったとしてもそれすらわからぬ子供であったのだ。




愛しながら奪う僕らは



補足→昔からあんまり屋敷から出してもらえなかったから世間知らずな子供の三成さんと御家の事情でやたらませてる嫁いできた幼女。このふたりの精神年齢は多分一緒。

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