DREAM | ナノ





「雪、でありんす。」

既に耳に馴染んだその独特の言葉と共に吐き出されたその言葉。つぃ、と障子の外を見やれば確かにちらちら、視界へと入る白い、白い、もの。ふ、とそういえば自身から出たものは煙管の煙ではない小さな霧。を部屋の中故か三寸ほどひろがり霧散した。高く結い上げた黒い髪により晒された項は寒くはないのだろうか、と取り留めもなく浮かぶ下らない思考に衣擦れの音が重なる。女を買う、否、情欲を買う。此処は人を狂わせる香でも焚かれているのだろう。何せ外の寒さにも気付かぬのだ。涅槃で淑やかに甘やかに囁かれる密事にくつり、と嗤いを洩らした。

『あてでは不満でありんすか。』

黒く染まった瞳が何を捉えているのかは分からない。だがその口元は愉快そうに三日月を描いているのが見て取れた。

「いやなに。雪の留め方を考えあぐねていたのだよ。」

雪。はたり、と小さく呟いて障子に手をかける女の名は何と云ったか。褥に広がる打掛にゆらゆら、蝋燭が揺れながら拙い火柱を映し出した。ゆるゆる、と伸ばされた白い掌に負けじと白い粉が舞って、落ちて、消えて、舞って、落ちて、消えた。

「あんれ、」

松永はん、存外夢見ていんすなぁ。雪を留めるなぞ、あてにはできんせん。しゃらり、簪を揺らしながらいつの間にやら濡れそぼった指先で至極可笑しそうに口元を覆った。さして残念そうな顔もせず、淡泊なまでの口調に意図せず笑みが深くなる。卿も溶けて無くなるのかね?そう問えば口元のみならず目元迄をも上弦の月。




然うして今日も生きていく


title by「亡霊」