プルルル、プルルル。 何度目かもう分からない呼び出し音が、一つだけ明かりが漏れている部屋から響いている。しん、と冷えた空気だけ、その場に存在しているような静まり返った家で、は、と小さく息を吐いた。 (電話、出ないな。) パタッ、と携帯を閉めて壁の時計を仰ぎ見る。カチカチ、ただただ秒針が進んでいくのを、ぼやん、とひたすら眺めては、また携帯に視線を落とす。壊れた薇仕掛けの人形のように、その動きを繰り返すだけだった。その日は帰れそうにない。そう言われても私は特に落胆してはいなかった。そうだろうな。仕方ない。と、諦めていたのだろう。彼は忙しいのだ。我慢しなければ、迷惑をかけてしまう。嫌いになられたら嫌、だ。恐れにも近い感情で、その場を笑って流した。 (暗いの怖いって、自分が分かってるくせに。) でも、やはり寂しくて、こうやって彼の帰りを待たずにはいられなかったのだ。ヘンな意地を張らなければよかった。やっぱり寂しいよ、と。そう言えば、優しい彼は、今日を共に過ごしてくれたかもしれない。でも同時に、優しさに甘えて、彼を困らせたくなかったのもある。社会人になって、まだ右も左も分からなかった私にイロハを教えてくれた人。棚の写真立てににかり、笑顔で写っている銀の、人。 『元、親。』 ぽつ、と呟いたところで静かな部屋に反響して、更に暗闇が怖くなる。一人で作った料理は、ただ冷えていくのみだった。 プルルル。 ぱ、と顔が条件反射のように上がる。私はかけてない。なら、残っているのは。 『、元親…?』 チカチカ、光るディスプレイに写し出された名前に目を見開く。カチ、と開いて通話ボタンを押した。 「あ、やっぱり起きてたか?」 『え、』 聞こえてきた声に、何故、と頭の片隅で問う。仕事の筈じゃなかったのか、私が起きているだなんて知らない、筈。 「ケーキ、買ってってるからよ。こんな時間に食ったら太る、とか言うんじゃねぇぞ。」 『なんで、』 「味だってわかんねぇから、適当だ。あぁ、それと、」 ハッピーメリークリスマス。ブゥン、というエンジン音と低く聞こえた彼の声が重なって、小さな部屋の灯りが一つ大きくなったのだ。 真夜中のロンド (あなたに贈る、) (その光。) |