DREAM | ナノ





「楽しそうだね。鬼事かな?」

飄々とした感情の読めない声が辺りに落ちた。誰か、など問う方が無粋と云えよう。ゆるり、と視線を持ち上げればほら、出逢う。深緑に彩られた瞳を美しい、と彼に逢う度に思ったものだ。少しばかり色素の薄い茶色を揺らしながら口元には空と同じ形の上弦の月を映し出す。此方もくぃ、と口角を上げて。


『いややわぁ。わちきは捕まえるんが常套ですぇ。』


かち合った視線はそのままに。くすくす、と涼やかに笑う彼はひどく無邪気な幼子のようである。



『なんや、今日はけったいな格好してはりますなぁ。』


浅葱色の染め抜きを羽織ったその姿は朧に光る月明かりに照らされ、ぽかり、と浮かび上がっていた。視界にちらほらと入ってくる同じ色をまるで、蝶のようだと一人ごちた。不意に耳にしゃきり、と響いたのは鯉口を切る音。ああ、存外早かった。己の髪はまだ夜風と遊んでいるようだ。

『急いては、すぐに逃げられますぇ?』

親が子を窘めるように、自分でも驚くほどの穏やかな声音で音が零れ落ちる。彼の笑みが深くなった。



「ねぇ、僕もかたらせてよ。」

鬼事に。くふくふ、と口を綻ばせながら歩み寄ってくる。それに応えて己の右の人差し指をたて、て。鬼事する人、この指とまれ。はーやくしないと切れちゃうぞ。切れちゃうぞ。未だなにも知らぬ頃、よく唄っていたであろう童唄。からん、ころん、とどこかで季節外れの風鈴が鳴いている。ふ、と月は消えてなくなった。嗚呼、もう。



蝋燭一本きーれた。



響いた声はどちらのものか。ねぇ、かたったよ、だなんて。蝋燭を切られた私には分からないのですよ。




蝶は食べてしまったのです


(切ってきられて、)
(壱、ぬけた。)