"人間って不器用だな。"


いつかそう言っていた気がする。自分は所詮偽善者で、世界が平和だったらいい、誰かを本気で愛してみたいトカ思ったりするが、裏ではそんな事できるわけ無い、世界なんてどうだっていい、そう思っていたりする。
そんな事考えてる自分が嫌で変えたいんだけど、どうせできないって思っている自分がいる。


エンドレス。もう何にも考えたくない。それから自分の口癖ができた。







『…メンドくさ。』

今日も今日とてぽつり、呟く。学校から帰るなり部屋の壁により掛かり、携帯をいじる。これが最近の日課。日課と言ってもただやることがないので、そうしているだけだが。


『…晩飯、何にすっかな。』

ふ、と無意識に詰めていた息を吐き出して、立ち上がりぐぅ、と伸びをする。その足で台所に向かう。途中ひょいと洗濯機に持って帰ってきた体操服を入れておく。

(慣れたもんだな、ウチも。)

感慨深く浸ってしまった。はた、と気づき、彼女、狐火は人知れず失笑を漏らす。ふるふると思考を飛ばすよう、頭を振ってまたゆっくり歩いた。

(確か朝、作り置きしとったおにぎりがあったはずやんな。)

台所のテーブルの上をきょと、と探す。


(あった、あった。)

目的のおにぎりを手に取り、椅子を引いて座る。もぐ、もぐ、と咀嚼して呑み込む。おおかた一つ食べ終わったところで、お茶を飲もうと立ち上がり、冷蔵庫に向かった。パカッと開き、冷えた麦茶を取り出す。次は湯呑みだと棚へと足を運ぶ。湯呑みを取って、



と、





ズキン、鋭い痛みが頭を刺した。


つる、と湯呑みを落としそうになる。慌てて持ち直し、狐火は安堵の息を吐いた。そして、またかと今度は重い息を吐いた。


(薬は飲んだっちゃがなぁ。)

その彼女の長い睫毛が貌に影を落とした。は、と溜め息を吐く。ここ七日ほど頭痛が収まらないのである。いつもの偏頭痛かと思い、薬だけ飲んで放っておいたのだが、どうも違うらしい。

(もう寝よう。)

コトリ、湯呑みを置いて冷蔵庫にお茶を仕舞う。残りのおにぎりにラップをかけ、台所の電気を消した。いよいよ酷くなってきた。こめかみを押さえ、痛みをやり過ごそうと試みる。自分の部屋に入るなり、ベッドにダイブする。ズム、と体がベッドに沈む。立っているかより随分痛みがましだ。



(あ、制服着替えとらん。)

ふ、とそこで気がつく。そう、自分はまだ着替えてもいなかったのである。ああ、皺になると思いつつ、だんだんと重くなる瞼に逆らえない。


(もう、いいや。メン、ドくせ……。)



闇に落ちる前に出た考えはいつも考えている事によく似ている気がした。








始まりの音は


(それは少しばかり)
(激しくて、)



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