走る走る走る。しんしんと降る雪は未だ溶けそうになくて不思議なほど蹄の音を吸い込んだ。騒々しいと思っていた彼らは、意外にも手綱を握ったままただひたすら道無き道を往く。もちろん狐火の偏見ではあるのだが正直なところ、狐火はそんな事には全く興味を示していなかったのでここでもとるに足らぬことであった。深く踏み込めば柔らかいその雪は今すぐにへこむだろう。じわじわと溶けてゆく白を横目に随分と前をゆく青い背中を見つめた。さて、これからなんと呼び掛ければよいのだろうか。敬語は必須であるだろうと思う。彼は政宗様と呼ばれていた。伊達政宗。過去に奥州を治め、遅すぎた英雄といわれた彼。それが今、目の前で確かに息づき躍動している。少し前までの自分であれば、全く何の感動も覚えることは無かっただろう。だが、この世界。異世界ではあるけれどもこの目に戦というものを直に写し、触れた今、じわり。小さく、けれど確かに狐火は言い知れぬ感動を覚えた。


「おい。」


低い、僅かに殺気、といえばいいのだろうか。それを纏った声音にちらり、顔だけをそちらへ向けた。うーむ。どうしたものか。やーさんがひたすら睨んでくる。ただでつけられたのではないであろう頬の一筋の傷が、さらに恐ろしさを増長させているものだからあまり直視したくはない。というより、見続ければ確実に寿命が縮む。せわしなく足を前へ進めながら何ですか、短く返した。


「てめぇ、なぜあんな所にいやがった。」

『?、何の話ですか?』

「ふざけてんのか…!?」

まずい。非常にマズいのでアリマス隊長。何のことだか本当によく分からないのだが、異様なほどに相手は怒っているらしい。必死に記憶の糸を手繰り寄せるものの、怒らせるようなことをした覚えが全くない。えーっと。曖昧に言葉を濁しながらなんとか宥めようと思ったが、そろそろ限界が近い。ホントに何かやらかしたの、か…


『あぁ、あん時のっていてでででで頭ぐりぐりは勘弁してくださぁぁぁ』

「地獄が見てぇかぁ!」

「What are yours doing…?」



東雲狐火。記憶力はけしてよくはないようである。移動中の記録より。




揶揄に還る




(淡くほんのり、)
(色づくもの。)



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