ギシギシと決して広くはない荒ら屋の中を見て回る。持ってきたものといえば、せいぜい着ていた制服ぐらいで特に持っていくべき物はない。そういえば今着ている着物は返さなくてもよいのだろうか。上の羽織はそれだけでは寒いだろうといつきがくれたのだが、やはり来たときと同じように制服で出るとしよう。不意に喧騒が外から聞こえてきた。


パラリラパラリラ。


「OK!調子はいいみてぇだな!」


「手綱は握れとあれほど申し上げて、政宗様ぁぁあ!」


『…………うーん。』


ノーコメントで。





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外へ出てみれば一面青、青、青。驚くことにほぼ同系色に身を包んだ人間ばかりだ。あまり目にはよろしくない。そして何故かはわからない。わからないが。


『リーゼントておい。』

先程の馬の足音と言い、目の前のリーゼントやマスクばかりの集団と言い、どこからつっこめばいいのか全く見当もつかない。あぁうん、異世界だから。それを念頭に置いておかなければもはやついて行けないと狐火は判断した。別名現実逃避とも云う。いつきはあの青年と話し込んでいるようだ。馬に乗っているため自然といつきが青年を見上げる形になる。首のいとぉなりそうやなぁ(首が痛くなりそうだなぁ)。ぼやっとした狐火の思考はぴたり、そこで止まった。馬乗れんなぁ、ウチ。さてどないしょう。走ってついて行くしかないのだろうか。恐らく狐火は此処にいる誰よりも身体能力は高いと確信めいたものを感じていた。それは自惚れでも何者でもなく、限りなく自然に近いもので。己の力がこの自分の元いた世界の過去と酷似した世界に存在する者としての一種の覚悟だとしたならば。自分はこれを受け止めよう。今はそれだけで十分なのだろうから。


『ウチは走ってついて行きます。』


はっきりとした口調で告げる。世界を変えると決めたなら自分のことから変えていく。どんなに些細なこともせめて決めたのなら曲げずに通すのが筋だ。くる、と優しい少女に向き直った。

『、ありがとう。』


もう一度護りたいと思わせてくれた。たった一歩だけれど最初に背中を押してくれたのはきっと彼女だったのだと思ったから。さぁ二歩目を踏み出しに行ってくるよ。


光る双眸は琥珀色。




蒼へ起つ




(初めの一歩、)
(みぃつけた。)



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