『えー、と。』

「………。」

「………。」

『えー…。』

「………。」

「………。」


誰かこの沈黙を打破してもらいたいと思います切実に。







微妙な顔合わせの状態から両者動かず。何とも言えない雰囲気が辺りには漂っていて、とてもじゃないが動き出せる状況ではない、と内心焦りまくる狐火であった。話す内容、話す内容、と頭を振り絞って考え出したのが。


『三日月、重くない、ですか?』


何ともまぁ、間抜けた問いである。慣れない敬語で更に酷くなっていた。相手は案の定ぱちくり、と目を白黒させている。隣のいつきは半泣きだし、雰囲気は重いし、ああもうめんどくさい。うむむ、と考え込んでいるところに不意に低い声がかかった。


「あんたが、この一揆を興したのか?」


切れ長の瞳を眇めて、此方を見定めるようにしている眼帯の男。うん。予想はしとったけどやっぱそういう結論になりますよね。ひくり、と引きつる頬を抑え、もう苦笑いを返すしかない。確かに今の状況だけ見たならそう考えるのが普通だろう。そこへ又しても飛び込んできた第四者の声。


「政宗様っ!」


わああカオス。いよいよ面倒なことになったと、そこで狐火が選んだのは現実逃避だった。



「てめぇ、」


狐火の存在に気づいたいかつい顔立ちの男はこれでもか、というほど眉間に皺を寄せて睨み付ける。睨まれた当の本人は、あらぬ方向へ視線を投げ、押し黙っていた。流れる沈黙。得体の知れない女に抱き付き、涙目の幼い少女。この国の城主にその側近。皆一様に押し黙り、内二人は女を睨み付けている。第三者からしてみれば、これほど混沌とした状況もないだろう、と苦く笑うしかない。うろん、と目を泳がせた狐火はなんとか説明せねばと口を開いた。


『あー、えと。話、聞いてもらえます、か。』


「、話?」

「政宗様、」


己の言葉に反応した眼帯の男に、強面の男がそれを制するように声を掛ける。一揆についてか。眼帯の男、基、面倒なのでもう眼帯でいいか。もう一人は893、基、やーさん。とにかく眼帯が何やら重苦しい雰囲気のまま視線だけでそう訊いてくる。こくり、とひとつ頷き返した。よし、これでなんとか話は繋いだ。ふ、とそこで横に張り付いているいつきを顧みた。鼻は未だ赤いものの、もう泣いてはいないようだ。よしよし、と頭を撫でてやる。というよりこれ以外慰め方が分からない。


『そういや、』


いつきも落ち着いたようだし、訊いてみようか。

『さっき、やおら太か(大きい)槌の先から雪だるまの出よった気がするっちゃが(気がするんだけど)。あれってなん?』


あとあっちの眼帯の刀から雷が。そう言えばきょとん、としたいつきがああ、という顔つきで。


「婆裟羅のことだべ?」


『ば、なんち(なんて)?』


「姉ちゃん知らないべ?これは神様に貰った力だべ!おらは雪さ出せるだが、あのお侍は雷だっただな。」


感慨深げに頷いているいつきには悪いが、頭の整理が追いつかない。過去に来たこと以外にも重大な事実が発覚したようです。





え。ここって異世界ですか?




深淵に穿て




(銀と全ての、)
(邂逅と。)



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