ぶおおぉおぉー…



法螺貝が鳴り響く。あぁ、ゆるり、銀に混ざる青を視界に写せば。







さぁ、舞台の幕開け、だ。






彼方此方から聞こえてくるのは、金属同士がせめぎ合う音。あたりを埋める銀の世界へと足を踏み入れば、まさに其処は阿鼻叫喚の火花散る戦場、で。ぐり、と無意識に握っていた拳を解いた。


『先ずは此処から、』



変えてみせるんだ。

駆け出す先は、優しい雪ん子。




*******





ぶわり、と真白の粉が舞う。元から吹雪いて悪い視界が、舞い散る雪で更に悪くなっていた。


「WAR DANCE!」


ぎゅん、と六爪もの刀を手元で回すように突き出す。傷つけはしない。なんせ相手は農民だ。本来なら、武器を持つべき存在ではない。だが、それが今、戦いを挑んでいるのだ。武器だって、鍬や鋤で、畑を耕すもののはず。満足に食べることができていないのが、よく分かる腕で。目を血走らせ、怒りと恐怖がない交ぜになった表情で、ただその手のものを振り回しているだけ。


「、ちっ。」



思わず舌打ちが洩れた。戦わせているのは、血を流させているのは、紛れもなく自分達だ。自分達の力が及んでいない所為で、彼等は苦しんでいるのだ。早く天下を取らなくては。だからといって、焦りすぎても意味がない。手当たり次第に力押しというのは、時として、此方の身を潰しかねない結果を招いてしまう。嗚呼、早く。早く。早く。視界に広がる青と白を、混ぜ合わせなければ。バリバリ、と光る稲妻がただ鼓膜の中を蹂躙していた。



ひゅ、と。



瞳の端を横切った黒があった。一面の白の中に、たった一つの漆黒が。疾る、疾る。きらり、刃の如く閃く琥珀の瞳に、風にはためく漆黒の髪は、まるで獣を連想させる煌めきで。




さぁさぁ、退いた退いた。逸惹狼様の御通りだよ。




疾るは現の




(見えているのは、)
(月の瞳。)



prev next