天候は吹雪。足元は埋まる。しかして士気は、



「さぁ、行くべー!!」



ぅおおおぉおぉおお!!!




上々、だ。











来るべき日。狐火は、いつきと共に、後ろに続く農民達を率いることになっていた。そして、意気込むいつきを少し複雑な心持ちで見ていたのである。


本当なら、こんな事はさせたくない。だが、所詮余所者の自分が、口を出せるはずがないのだ。世界を変えると云っても、根本的な部分から、である。理を変えねば、堂々巡りを繰り返すのみ。ならせめて。




守るん、だ。





幸か不幸か、今この身には何らかの能力が備わっているらしい。臆病な自分はまだ力を伝えてはいないけれど。止められないなら、守ればいい。そんな単純な事しか言えないけれど。幾年もの月日を共に過ごしたわけではないけれど。


『失うんは、こりごり、や。』



只、目の前の優しい、愛しい、人達を。





********







「…Hey、小十郎。」



「は、」



吹き付ける冷たい雪に目を細める。弦月の前立てに右目を覆う黒の眼帯。提げているのは、左右三振りずつの刀。

控えるのは、髪を後ろへと撫でつけ、左頬に一太刀の傷。長く伸びたその影は、二振りの業物。



「旗色はどうだ。」


「は、兵糧も確保。士気、兵共々万全。いつでもご存命を。」


「Hum…Gotcha.下がれ。」

「…恐れながら政宗様。今回の件なのですが。」

「Ah?」


切れ長の左だけの光をすぅ、と細めながら自分の後方を見やる男。彼こそ、奥州の若き竜・伊達政宗。どことなく剣呑な雰囲気を漂わせている己の腹心を鋭い瞳で横目に見た。


「この、農民達の一揆に御座います。」


彼を真っ直ぐに見やるその男は、伊達が竜の右目・片倉小十郎である。すく、と膝立ちの状態から膝を伸ばすとぐ、眉間に皺を寄せ、口を開いた。

「あぁ、分かってる。農民達の理由は後だ。裏には恐らく、」


一旦言葉を切り、小十郎に向けていた視線を、雪に囲まれた山々へと移した。



「畠山、だろうな。」


苦々しくこぼした言葉と同時に、徐に腰の刀の柄ををさらり、撫でた。小十郎はというと、主の言葉に珍しく、南蛮語が混じっていないのに懸念していた。普段の政宗様ならば、くーる、だったか、ぱぁりぃ、だかをよくお使いになられる。その分、事は重大なのだ。



「前々から、怪しいとは践んでいたがな。ここ数日も畠山はここいらに来たらしい。Shit!」


苛立ちを隠そうともしない主を目にして、小十郎は言葉を紡いだ。


「年貢の見回りにでも出たのでしょう。しかし、この一揆…。」


「Imagine a world without war.俺達は、立ち止まるわけにはいかねぇ、だろ?」


「は!、呉々も、ご無理はなさらぬよう。」


「All right!馬を引きな、小十郎!」



若き竜は思いを胸に、白く埋められた世界へ、弦月を煌めかせる。






瞳に写りし、




(包むは、)
(広く、蒼く、)



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